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「納得のいく部屋が見つからなければ、美里の部屋に――」
「はあ? 無理無理」
「そこを何とか……」
「んな心配しなくても、大丈夫っしょ」
また根拠のない二回目の“大丈夫”を聞かされて眉根を寄せた凪に対し、美里は悠々と蕎麦を啜る。
前以て取り壊しを知っていた瀬山さんなら、凪にとっても良い方法で何かしらの準備をしているはず。
なんて勝手な想像をしながら、美里は次の話題を振った。
「それより年越し、凪は実家帰るの?」
「今年は篤、瀬山さんと過ごそうかなって思って」
「は〜良いのう、私も早く恋人見つけよう」
「次は既婚者寄せ付けないで頑張れ」
「おう」
凪と篤人を見ていて羨ましくなった美里が、願望を口にするとどんぶりを両手で持ち残りの蕎麦つゆを飲み干した。
そこへたまたまお水を注ぎに来たのは、色素の薄い髪色のマッシュショートと、蕎麦屋指定の藍色エプロンをしたバイトの男の子。
彼が驚いた表情で美里の豪快な飲みっぷり姿を見てしまっていた。
「……あ、すすすみませんお冷注ぎますね!」
「やだ、バイト君に見られちゃったわ」
そう言いつつも、別に恥ずかしそうな素振りのない美里。
むしろ開き直ったような態度で、仕事中のバイト君に絡みはじめた。
「君大学生?」
「あ、はい。二年です」
「じゃあもうハタチになった?」
「はい、九月に……」
年齢を確認した会話内容を聞いて、嫌な予感がした凪。
これ以上バイト君の仕事の邪魔はいけないと思ったが、制止の言葉をかけるより先に美里の悪い部分が出てしまった。
「この際年下も良いよね〜」
「へ?」
「こら美里!」
決して酔っ払っているわけではないのに、まるでバイト君を誘惑するかのようなノリで笑顔を向けた美里。
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