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「わ、夕食準備してくれてたの?」
「うん、みんな大好きであろう生姜焼き」
「確かに大好き。凪、ありがとう」
ペコペコだったお腹を撫でながら少年のように喜ぶ篤人に、凪も心が満たされていく。
いただきます、と一緒に唱えて同じ食事を共にする。
おいしいね、と微笑み合って同じ空間と時間を共にする。
篤人の目尻が垂れる可愛い笑顔も、時には悲しいことがあって泣き出しそうな顔だって。
いつでも傍で感じていたいと凪が願った時、篤人が普段のトーンで話しはじめた。
「会社までは徒歩十五分だから、今とそんなに変わらなくて」
「え?」
「エントランスも綺麗で防犯も整ったマンションに来月空きができるんだけど」
「……マンション?」
「住みたいと思ってるんだよね、凪と一緒に」
「っ……⁉︎」
唐突すぎる同棲の提案に凪が目を丸くして固まると、想像通りの表情に篤人が控えめに笑う。
ただ、今住んでいるアパートの取り壊し決定を知る前から、心のどこかで既に考えていたことだったから。
「同棲、しませんか?」
「……本気?」
「もちろん。凪と出会ったアパートがなくなるのは寂しいけど、背中を押されてる気もしていて……」
二人が心から結ばれたこのタイミングでの、社員寮のアパートが老朽化と縮小により取り壊し。
今後も一緒にいたいのなら今しかないと、見えない何かに催促されている感覚を覚えたらしい。
それに、遅かれ早かれ同棲することを考えていた篤人にとっては、もう何の迷いもなかった。
「実際に内見してみてから決めてもいいし、凪が納得いく部屋の中から決めてもいい」
「篤人……」
「凪の生活はなるべく変えないように、俺も頑張るから」
凪のことを気遣いながら話す篤人の眉が、どんどん自信なさげに下がっていく。
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