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おやつを懇願する子犬のような表情を向けられて、凪の弱い部分を突いてきた。
その顔にお願いされると断れないことを、篤人自身が気づいているのかはわからないけれど。
今の篤人をいち早く笑顔にできるのは自分の一言にかかっていると思うと、凪の心はいつも以上に疼くのだ。
だから、答えはもうとっくに決まっている。
「……たまに外食してもいい?」
「も、もちろん! 一緒に食べに行こう」
「休日はダラダラしちゃう時も……」
「ゆっくりしてて、家事も料理も俺がやるから」
「セックスは月三回」
「うん……え? え、それは……要相談で」
「ふふ、正直すぎ」
他のわがままは聞き入れてくれたのに、本能には素直すぎる篤人の反応につい笑い声を漏らしてしまった。
世間の平均に“要相談”とは、一体どんな相談をされるのか想像すると身が持たないと思って。
凪は最後の項目について優しく訂正する。
「じゃあ、次の日に支障がない程度」
「わ、わかった……」
(納得してないな?)
明らかに肩を落としながら食事を再開する篤人を目の前に、凪のときめきはますます加速した。
こんなこと本人には言えないけれど、そう約束しておいて例外があった時の篤人の喜ぶ顔を想像すると。
今の凪の口角が上がってしまうのだ。
「ねえ、篤人が言ってたマンションの間取りわかる?」
「うん。不動産会社から印刷してもらった紙があるよ」
「えー見たい見たい」
凪が興味を示してくれて、篤人もパッと気持ちを切り替え喜びが滲み出た笑顔を浮かべる。
何はともあれ同棲について前向きであることに変わりなく、それがわかって安堵できた篤人が一枚の紙を凪に渡した。
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