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そこには割りと新しめな十五階建てマンションの外観と、
来月空きが出る予定だという部屋の間取り図がカラーで掲載されていた。
「うわ、すっごくいいじゃん」
「凪ならそう言ってくれると思った」
「これは内見が楽しみ」
新しい物件に一気にテンションが上がり瞳を輝かせる凪に、篤人もご満悦な様子。
今の1LDKから2LDKへレベルアップしただけでなく、各部屋の広さも二人で住むには充分。
エントランスには憧れのオートロックが完備されているから、これでもう佐渡部長と美里に小言を言われなくなる。
会社からも近くて築年数も浅く、南向きで景観も楽しめる上層階となれば。
凪の心が躍るのも無理はない。
こんな素敵な家で篤人と一緒に新生活を送れることを想像すると、自然と顔がにやけてしまった。
「篤人、色々考えてくれてありがとう」
「気に入ってくれた?」
「うん、条件良すぎて一目惚れ」
凪は自分の引っ越しばかりを考えていたことを反省したと同時に、いつも二人の未来を考えて行動してくれる篤人に感謝する。
可愛い一面がある年上の男、だけじゃなく頼もしさも兼ね備えているところに惚れ惚れしていた時。
仰天の情報を目にして、思わず呼吸を忘れて全ての動きを止めてしまった。
「……え、なにこれ」
「んー?」
先ほどまでの浮かれ気分から一転、引き攣った顔の凪が指先で示したのは。
現在より何倍もする、マンションの月々の家賃。
ボロアパートで慣れてしまっていた凪の価値観では、あまりに高額すぎる数字に声が震えてくる。
しかしマンションの築年数や部屋の広さを考えると、一般的なものだと篤人が説明しようとしたのだが――。
「ちょ、考えさせて」
「ええ⁉︎ 凪、同棲はOKだよね?」
「っ…………」
「凪⁉︎」
不自然に視線を逸らした凪に不安を覚えた篤人は、何度も名前を呼んだが反応は無かった。
アパートの取り壊しまで半年。
果たして凪と篤人は無事新しい家を見つけることができるのか、そもそも同棲を始められるのか。
その答えは、年が明けた三月に出る。
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