01. 遠距離の彼が帰ってくる

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 翌日の凪は、普段よりも一時間早く会社に到着した。  もちろん部署にはまだ誰も出勤していなくて、必然的に一番乗り。  その理由は、昨夜の誕生日のために用意した二人分の食事。  それを一人で食べ尽くしたことによって引き起こされた腹痛で全然眠れず。  ようやく痛みが治まってきたのは、すでに明け方になった頃。  それから寝たとしても乱れた睡眠サイクルのせいで寝坊してしまう恐怖に襲われた凪は、一睡もしないまま出勤したというわけだ。 「ねっむ……」  そう漏らして自分のデスクに突っ伏すと、思い出すのは昨夜の出来事。  俊と別れたこともそうだが、それよりも今は――。 「あんの、泥酔男……」  よくよく考えたら、あんなイケメンが醜態を晒しているところを見たことない。  男的には多分、あまり見られたくない一面なのではないか? (いや、女の私もさすがにあんな姿は誰にも見られたくないわ……)  我を忘れて酔うほどの、お祝い事があったのか。  それとも忘れたいほどの悲しい事があったのか、凪のように。 (ま、俊のことは一夜明けてほぼ吹っ切れた気分だけどね……)  簡単に捨てて今や元彼となった俊のことを、ずっと引きずっていても仕方がない。  夜中の腹痛が消え去った時、俊への想いもこんなふうにスッと消え去ってくれたら良かったのに。  そう思うくらいだから、立ち直れる日も近い気がしていた。  デスクに突っ伏したまま瞼を閉じて、始業時間が来るまでの少しの間。  気持ちを楽にした凪はそのまま眠りにつく。
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