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「……ぎ、おきて」
「っ……ん」
「凪、起きろー」
「あ、美里……?」
「おはよ。もうすぐ朝礼だよ」
肩を揺らされて瞼を開けた凪は、始業時間ギリギリに出勤した美里に起こされた。
先ほどまで誰一人居なかった職場は、すでに社員全員が集まっていて騒がしい。
ゆっくりと姿勢を正した凪は、手で口元を隠すことなく大きなあくびをしながら礼を言う。
「ありがと、寝過ごすところだった」
「ふふ〜ん。昨日彼が寝かせてくれなかった感じカナー?」
「そんなんじゃない、てか別れたし」
「なーんだ……ええ⁉︎」
驚きのあまりに固まる美里を、何食わぬ顔で見つめる凪。
それもそうだろう。昨日までは当事者の自分さえも、別れるなんて思ってもみなかったのだから。
案の定、美里の視線が「詳しく話せ」と圧をかけてきたが。
残念ながら佐渡部長が朝礼開始の合図を出したので、美里は自分のデスクへと戻っていく。
(あーあ、昼休みは取調べだなー)
でも、誰かに話した方が頭の中が整理されるし、美里の言葉で気付きを得られるかもしれない。
凪自身、美里の存在をありがたく感じながら起立して、職場の前方に視線を向けた。
すると、いつもは佐渡部長が社員の衆目を浴びながら朝礼を行うところなのに。
本日だけは何故か、周りがざわめき始めた。
佐渡部長の隣に、みんなが初対面となるスーツ姿の男性が並んで立っていたから。
だけど、凪にとってその男はもう“初対面”ではなかった。
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