01. 遠距離の彼が帰ってくる

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「本社から転勤してきました、瀬山(せやま)篤人(あつと)です。よろしくお願いします」 (……え? ……は?)  ピンと張った夏用ワイシャツと、丁寧に磨かれた革靴。  ミディアムセンターパートの黒髪がしっかりセットされていて、鼻筋の通った男らしくも繊細な骨格。  切れ長の目は初めましての挨拶用に優しく微笑んでおり、一瞬にして女性社員の心を掴む罪深くて爽やかな人。  その姿からは想像もつかないが、凪だけは彼の本性を知っている。 (昨夜私の胸揉んだ泥酔男……⁉︎⁉︎)  篤人の挨拶に社員全員が拍手で応える中、凪だけは口を半開きにしたまま瞬きも忘れていた。  昨日の今日で生存確認できたことはよかった。  しかし、同じ職場の人間だった現実を目の当たりにして、さすがの凪も気まずくて嫌な気持ちを持つ。 「瀬山には長らく不在だった一課の課長としてきてもらったんだ」 (しかも一課! 私の直属の上司じゃん!) 「明日は歓迎会するからみんな予定空けとけなー」 「はーい!」  佐渡部長の説明を聞いて、凪は最悪な気分で頭を抱えていた。  本日より自分の仕事内容、スケジュール、評価の全てが、あの憎き泥酔男に把握される。  今は余裕たっぷりな作り笑顔と冷静沈着を装っているが。  昨夜はだらしないほどに泥酔し会話もできないポンコツで、最終的に見知らぬ女の胸を揉んだ最低な男。  とてもじゃないけど、凪は上司として篤人のことを信用できないと思った。 (仕事、やりづらくなるな〜)  平穏だった日常は、昨日から徐々に狂い始めていて。  それはもうしばらく、続く予感が否めない凪だった。
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