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「八乙女さん、ちょっといいですか?」
「っ……はい」
午前中の業務が始まって、早速新しい上司“瀬山篤人”に呼び出された凪は。
重苦しい返事をしたのちに席を立ち、すぐ近くの課長デスクへ向かった。
「先ほど提出された入庫データなんですが……」
「それが、何か」
「合計数字が間違っています」
「……ん、え⁉︎」
篤人の持つ用紙を奪って上から下まで目を通す。
どうやらエクセル関数に誤りがあったらしく、指摘通りのミスを認める。
「すみません、すぐに作り直します」
「午後の対応分なので、急ぎでお願いします」
「はい……(わ、わかってるよ!)」
確認すれば防ぐことができた初歩的なミス、普段は絶対しないのに。
頭を下げた凪は、申し訳ない思いよりも悔しい気持ちの方が大きかった。
寝不足のせいか、それとも新しい上司のせいか……。
というか。無許可で胸を揉んだラッキースケベに、一言申したい気持ちは山々なのに言えないこの環境に悶々とする。
ミスを指摘した後、涼しい顔をしながら仕事を再開する篤人に対して、腹立たしい気持ちが込み上げる。
(あんた、偉そうにしてるけど昨日私の胸揉んでっかんな!)
そう叫びたいのを必死に堪えて自席に戻ろうとした時、佐渡部長が凪に声をかけた。
「お、珍しいな。八乙女がミスなんて」
「気が緩んでいました……」
「彼氏に誕生日祝いしてもらった次の日だしなー」
「っ……」
ああそうだ。佐渡部長にも昨日の予定を話していたんだ。
これでは彼氏と楽しい誕生日を迎え、浮かれていたからミスを発生させたと思われる。
そう懸念した凪が、恐る恐る篤人の顔を窺うとバチっと視線がぶつかった。
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