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「部長っ(ほら睨まれたー!)」
「まあ安心しろ。ミスなんて誰にでもあることなんだから」
「わ、わかってますけど……」
「こんなしっかり者の瀬山もな、昨日は随分酔い潰れていたんだぞ」
「え?」
昨日の佐渡部長は確か、本社からきた後輩と飲む予定があると言っていたのを思い出した凪。
そのお相手が篤人であれば、点と点が線で繋がる。
佐渡部長と飲んで酔い潰れた篤人が、引っ越しして間もないアパートに帰宅した際。
部屋を間違えて凪の玄関前に現れた、というストーリー。
「佐渡さんやめてくださいよ、昨日はたまたま飲みすぎただけです」
「お前が酒に溺れるのも珍しいよな、あんな姿知ったら社内のファン減るぞ」
「そんなのいませんから」
「あの後ちゃんと家に着いたのか?」
「はい」
(いや帰れてないから! 間違えて私の家のドアノブ捻ってたから!)
しれっと返事をする篤人に向かって、イライラとしたオーラを放つ凪が心の声でつっこむ。
よくもそんな平然と「はい」が言えたなと感心する一方で、篤人の失態の事実は凪しか知らない。
その歯痒さを抱きつつ自分のデスクに戻った凪は、しばらくはこの精神状態のまま仕事をすることに不安を覚えていた。
(はあ、調子狂う……)
もちろん、変に意識してしまっているのは自分の方で。
篤人には昨日の失態も、凪のあれやこれやに触れた記憶も残っていないのだから。
急ぎ入庫データの修正を行いつつ、慣れろ慣れろと頭の中で呪文のように唱え続ける凪だった。
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