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修正後の入庫データを提出し、無事に昼休みを迎えられたのは良いのだが。
次に待っていたのは、会社近くの蕎麦屋にて執り行われる美里からの取調べ。
「で、なんで別れる話になったの?」
「転勤先で好きな人できたんだって」
「うわ、それ凪の誕生日に言う?」
「言ったんだよヤツは。しかも絶対その女と付き合ってる」
「二股してた挙句に凪を振ったってことか。やり方汚いなぁ」
四人がけのテーブル席で向かい合って座る二人は、冷たい蕎麦をすすりながら全然涼しくならない内容の話をする。
それでも、やはり話せば幾分気持ちが冷静になれるから、凪は救われた気分でいた。
すると店の引き戸がガララと開いて、聞き覚えのある声が耳に届く。
「おお、お前たちも蕎麦か」
「佐渡部……!」
ネクタイを緩めながら店内に入ってきたのは、お馴染みの佐渡部長。
そしてその隣にいたのは、外の熱気にも負けず汗ひとつ流さない瀬山篤人。
少し軽くなったはずの凪の心に、再び負担とストレスがのしかかった。
しかし、美里は本社からやってきた篤人に興味深々な表情を浮かべて席を立つ。
「瀬山さん、私二課の窪田です。よろしくお願いします」
「あ、瀬山です。よろしくお願」
「佐渡部長から聞きましたー! 二十八才で課長なんてすごすぎますね!」
「いえ、僕の力だけではないので」
歓迎と尊敬の眼差しを向ける美里に、篤人は微笑みながら謙遜する。
そんな中、凪は今の会話で篤人の年齢を初めて知った。
自分より三つも年上の大人が、昨夜の醜態を晒していたと思うとますます失望していく。
美里はイケメンが好きだから、本社からきたばかりの篤人に積極的に関わっていこうとするけれど。
既にダメな部分を見てしまっている凪は、社外では関わりを持ちたくなくてひたすら蕎麦をすする。
「よかったら一緒に食べませんかー?」
「じゃあお邪魔するか瀬山!」
美里の余計な提案にすぐに乗ってきた佐渡部長は、空いている凪の隣の席に座ってきた。
そうなればもちろん、美里の隣に座るしかなくなった篤人が、静かに腰を下ろす。
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