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斜め前方に、私の敵が……。
なんてことを考えながらも、篤人が隣に座らなくて本当に良かったと安心した凪。
ただ、この空間に居続けるのも苦しいから、早く食べ終えて先に退席しようと目論む。
そうとは知らず、美里は注文を終えた篤人に色んな質問を投げかけてコミュニケーションをとり続けた。
「え、じゃあ本社でお世話になった佐渡部長を慕って地方の支店に?」
「人員不足で大変そうな佐渡さんの力になれればと。新人の僕を佐渡さんが育ててくれた恩もあるし」
「えー素敵な師弟愛ですねー!」
「そんな大袈裟なものでは……」
そんなことを淡々と話す篤人だったが、美里のおかげで直属上司の義理堅い部分を知れた気がした。
凪が入社したのと同時期に、本社から今の支店へと異動してきた佐渡部長。
元々地元で働きたかった佐渡部長は、希望通りの異動だったと話していたことをうっすら覚えていたが。
地元でも何でもない篤人は、そんな佐渡部長を助けるために本社からわざわざ異動してきた?
それが本当の話なら、案外真面目で情深い人間なんだと窺えた。
「な? 可愛いとこあんだよ瀬山は。だから八乙女も助けてやってな」
「え……まあ、はい……」
でも、だからと言って昨夜の凪にした行為が帳消しになることはない。
篤人に対して一線を引く凪は、佐渡部長の言葉に歯切れの悪い返事をした。
するとすかさず、美里が佐渡部長にこっそりと真実を打ち明ける。
「凪は今機嫌悪いんです、昨日彼と別れたから」
「え⁉︎ 別れた⁉︎」
そう言ってワクワク感半端ない佐渡部長の視線が、凪に一点集中した。
余計なことを、と思いつつ美里を鬼の形相で睨んだ時、もう一つの真実が語られる。
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