01. 遠距離の彼が帰ってくる

17/18
前へ
/119ページ
次へ
 斜め前方に、私の敵が……。  なんてことを考えながらも、篤人が隣に座らなくて本当に良かったと安心した凪。  ただ、この空間に居続けるのも苦しいから、早く食べ終えて先に退席しようと目論む。  そうとは知らず、美里は注文を終えた篤人に色んな質問を投げかけてコミュニケーションをとり続けた。 「え、じゃあ本社でお世話になった佐渡部長を慕って地方(こっち)の支店に?」 「人員不足で大変そうな佐渡さんの力になれればと。新人の僕を佐渡さんが育ててくれた恩もあるし」 「えー素敵な師弟愛ですねー!」 「そんな大袈裟なものでは……」  そんなことを淡々と話す篤人だったが、美里のおかげで直属上司の義理堅い部分を知れた気がした。  凪が入社したのと同時期に、本社から今の支店へと異動してきた佐渡部長。  元々地元で働きたかった佐渡部長は、希望通りの異動だったと話していたことをうっすら覚えていたが。  地元でも何でもない篤人は、そんな佐渡部長を助けるために本社からわざわざ異動してきた?  それが本当の話なら、案外真面目で情深い人間なんだと窺えた。 「な? 可愛いとこあんだよ瀬山は。だから八乙女も助けてやってな」 「え……まあ、はい……」  でも、だからと言って昨夜の凪にした行為が帳消しになることはない。  篤人に対して一線を引く凪は、佐渡部長の言葉に歯切れの悪い返事をした。  するとすかさず、美里が佐渡部長にこっそりと真実を打ち明ける。 「凪は今機嫌悪いんです、昨日彼と別れたから」 「え⁉︎ 別れた⁉︎」  そう言ってワクワク感半端ない佐渡部長の視線が、凪に一点集中した。  余計なことを、と思いつつ美里を鬼の形相で睨んだ時、もう一つの真実が語られる。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3597人が本棚に入れています
本棚に追加