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「すげえ! 瀬山と一緒だな!」
「っ……は?」
「こいつも最近別れたんだよ、なあ?」
人の不幸を平気で漏らすのもどうかと思うが、裏表のない佐渡部長に隠し事は無理な話で。
篤人も破局したばかりと知った凪は、関わりたくなかったはずの直属上司に視線を送ってしまった。
すると、バツの悪そうな表情を浮かべて弱々しく声を漏らす。
「やめてくださいよ。僕は一ヶ月前なんでもう吹っ切れてます……」
「そうか? でも昨日の飲み方はお前らしくなかったぞ?」
「そ、そんなことは」
「あれ? 覚えてないのか?」
「っ……」
どうやら本当に記憶にないらしく、佐渡部長もなんだか哀れに思ってそれ以上は語らなかった。
ただ、昨夜の泥酔した篤人の様子を知る凪は、少し考えてしまう。
普段は冷静沈着を装っている篤人が、かつて恋人だった女性の存在を忘れたくて、泥酔するまで酒を飲んでいたとしたら。
『……まなみぃ……』
あの時、篤人がぽつりと寂しげに呟いたのは元カノの名前で、凪の胸はその“まなみ”の代わりに一揉みされた。
篤人本人と昨夜の件を一言も話していないのに、何となく見えてきた真実に近い全貌。
そして凪の中で、湧き上がる感情は――。
(破局によるヤケ酒からのあの迷惑行為、そして覚えてないなんてホントありえない……)
同じ破局した者同士の情けではなく、やはり軽蔑の眼差しを止めることはできなくて。
本社からやってきたエリート上司の篤人とは、分かり合える気がしないと思っていた。
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