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「その日は、佐渡部長と飲みに行って」
「行って?」
「……すみません、その後のことを実はあまり覚えていなくて」
「そう、ですか」
「やはり飲み過ぎは良くありませんね」
困った様子で誤魔化すこともせず答えた篤人に、また少し好感度が上がってしまった。
そう、目の前の新しい上司、瀬山篤人の本性は。
泥酔男の方ではなく、冷静沈着で誠実な方であってほしいと凪自身が願ったから。
「私は覚えています」
「え?」
「すっかり泥酔した瀬山さんが、間違えて私の家のドアを開けようとしたことも」
「……ん?」
「不用心にドアを開けた私に、瀬山さんが覆い被さって倒れ込んだことも」
「っ……」
「最後に私の胸を揉んだことも全部、覚えています」
この数日間ずっとモヤモヤしていた感情が、やっと晴れた凪。
しかし、記憶にない悪行の数々を伝えられた篤人の表情は硬直し、声も発せずにいる。
そしてゆっくりと自分の手のひらを確認すると、凪の言葉に反論することなくその場に深々と頭を下げて謝った。
「……本っ当にすみませんでした!!」
「え、瀬山さん?」
「殴ってください、いや通報してください!」
「ちょ、あの、とりあえず頭上げてください」
近所迷惑を恐れた凪が、冷静さを失った篤人の肩を軽く叩いて声をかける。
が、上体を起こした篤人は青ざめていて、明らかに戸惑っていた。
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