01. 遠距離の彼が帰ってくる

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 半年前に交際をはじめた彼の転勤が決まり、離れて生活してからは三ヶ月が経つ。  連絡を取り合い、たまにテレビ通話をして近くに感じることはできても。  実際に触れ合えないというのは、案外寂しいものだった。  そうして終業時間となり、本日分の業務を全て片付けた凪はデスク周りを整頓する。  その時、上司の佐渡(さわたり)部長も本日誕生日の凪にお祝いの言葉を伝えにやってきた。 「入社した時はこんなにちんちくりんだった八乙女も、もう二十五歳か」 「いや三年でそんな変わりませんから」 「そんなことないぞ? 新人の頃より仕事はしっかりしてくれるし頼もしくなっただろ」 「それは、まあ……ありがとうございます」  凪が入社してからずっとお世話になっている佐渡部長は、今年四十五才を迎えた。  部下にあたる社員一人一人の面倒を見たり、相談相手になってくれる良き上司。  それでいて、美人な奥さんと三人の子供にも恵まれているのだから、羨ましい限りだ。 「本当は飲みに誘いたいけど、今日は流石に彼氏優先だな」 「すみません」 「いや、俺も今夜は本社からきた後輩と飲む予定があって。だからお祝いは今度だな」 「はい是非、奢ってください」 「遠慮なしか、お祝いされる側だからって」  こんな内容も笑って会話できるくらい、この職場の上下関係は心地良く。  そういう雰囲気を作ってくれている佐渡部長のことを、凪は上司として尊敬していた。
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