3612人が本棚に入れています
本棚に追加
/119ページ
凪の勤めるタキタニ運輸という会社は、物流事業を手がける大きな企業。
東京に本社を持ち各都道府県に支店を設けていて、その支店の中の総務部に凪たちは属している。
つまり、エリートの集まる東京の本社から佐渡部長の後輩がきていて、今夜はその後輩と飲むらしい。
(部長って、確か本社にいたことあったんだっけ……?)
一階が物流倉庫、二階三階がオフィスとなる建物から出てきた凪は、部長の交友関係を不思議に思いながら徒歩で帰宅する。
ここから十五分歩けば到着してしまうのが、築三十年木造二階建てアパートの社員寮。
一階と二階に1LDKが四部屋ずつあって、その102号室に凪は一人で住んでいた。
(外観はだいぶ年季入ってんなー)
古びた鍵を開けながらそんな感想を脳内で述べる。
今時のオートロックや防犯カメラもない。
ただ、内装はまあまあ綺麗に工事はしてくれたらしい。……十五年前に。
(美里も佐渡部長も“独身女が一人でそんなところに住むな”って言うけど、家賃安いんだよ)
家賃の四割も会社が負担してくれるし、一般的な1LDKよりも広々と生活できている部屋に凪は満足していた。
それに、ほとんどの住人はトラックドライバーだから、生活リズムが異なる事務職の凪と顔を合わせることもほぼない。
おまけに隣の角部屋101号室は唯一の空室で、騒音を気にしなくていい。
近所付き合いで悩むこともないこのアパート住みは、最高だった。
最初のコメントを投稿しよう!