01. 遠距離の彼が帰ってくる

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 凪の勤めるタキタニ運輸という会社は、物流事業を手がける大きな企業。  東京に本社を持ち各都道府県に支店を設けていて、その支店の中の総務部に凪たちは属している。  つまり、エリートの集まる東京の本社から佐渡部長の後輩がきていて、今夜はその後輩と飲むらしい。 (部長って、確か本社にいたことあったんだっけ……?)  一階が物流倉庫、二階三階がオフィスとなる建物から出てきた凪は、部長の交友関係を不思議に思いながら徒歩で帰宅する。  ここから十五分歩けば到着してしまうのが、築三十年木造二階建てアパートの社員寮。  一階と二階に1LDKが四部屋ずつあって、その102号室に凪は一人で住んでいた。 (外観はだいぶ年季入ってんなー)  古びた鍵を開けながらそんな感想を脳内で述べる。  今時のオートロックや防犯カメラもない。  ただ、内装はまあまあ綺麗に工事はしてくれたらしい。……十五年前に。 (美里も佐渡部長も“独身女が一人でそんなところに住むな”って言うけど、家賃安いんだよ)  家賃の四割も会社が負担してくれるし、一般的な1LDKよりも広々と生活できている部屋に凪は満足していた。  それに、ほとんどの住人はトラックドライバーだから、生活リズムが異なる事務職の凪と顔を合わせることもほぼない。  おまけに隣の角部屋101号室は唯一の空室で、騒音を気にしなくていい。  近所付き合いで悩むこともないこのアパート住みは、最高だった。
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