01. 遠距離の彼が帰ってくる

4/18
前へ
/119ページ
次へ
 午後九時を回って、凪の部屋の中はまだ静けさに包まれていた。  二人掛けのダイニングテーブルには、誕生日用にホールケーキとデリバリーのピザ。  そして手作りサラダも用意されているが、全く手をつけていない状態。 「(しゅん)、遅いなー」  出発前に「高速道路で渋滞にはまるかもしれない」という連絡があってから、二時間は経過している。  運転中とわかっていてこちらから連絡するのも悪いし、凪の自宅に向かっていることに変わりはないのだから、とスマホは触らず。  そうして誕生日の夜に一人テレビを見ている凪は、顔には出さずとも待ち遠しくてたまらなかった。  共通の友達がいて、波長が合いそうだな〜と思っていたら自然と付き合うことになった凪と俊。  だけど交際開始して三ヶ月で俊は転勤先へ行ってしまい、遠距離恋愛がはじまって更に三ヶ月。  お互い忙しくて遠距離恋愛中は会えないまま、あっという間に交際半年が過ぎた。  正直、恋人っぽい触れ合いは三ヶ月ぶりで、徐々に緊張を覚える凪は。  洗面台の鏡前に立って、自分の顔をよーく見てみた。 「……もう少し、メイクした方がいいかな」  三ヶ月ぶりに会うのだから、どうせなら綺麗だねって思われたい。  唇と目元に彩りを加えて、職場用のあっさりしたメイクよりも少し女性らしい凪へと変身した。  普段持ち合わせていない乙女心が、特別な人の前だけに発動するのは当たり前。  大きめのTシャツにサテン生地のショートパンツは、凪の生足をより唆るものに仕上げていてアピール準備も整った。  あとは、愛おしい俊が到着するだけ――。
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3604人が本棚に入れています
本棚に追加