01. 遠距離の彼が帰ってくる

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 これはもう通報しかない。  だけどスマホはリビングのテーブル上に置いたままである。  ならば夜分遅くに申し訳ないけれど、大声を出して近所に助けを求めよう。  そう思った凪がスッと息を吸い込んだ時、男性の吐息が首筋を伝って思わず体が強張った。 「ッ⁉︎」  それは恐怖によるものではなく、腰裏をゾクリとさせる媚薬のような効果で。  他人から受ける久々の肌への刺激に、凪はつい呼吸を止めて身動きできなくなってしまった。  そんなことになっても未だ泥酔中の男性は、凪の首元で甘えるようにスリスリと黒髪を擦ってくる。  覆い被さる自身の体を起こすどころか、見ず知らずの凪の生足や細い腕にゆっくり触れていくと。  不意に、布越しに柔らかな膨らみが手のひらにおさまって、一揉みした男性がぽつりと寂しげに呟いた。 「……まなみぃ……」 「…………は?」  一瞬、この住み慣れた自宅が地獄のように思えた。  人の胸を揉んでおいて他の女の胸と間違えている男性の一言に、凪の怒りがやっと迷いなく頂点に達した時。  はたから見れば、ただ玄関で男女が抱き合い今にも始まりそうな状況を。  渋滞を抜けてようやく到着したばかりの俊が、玄関のドアを開けて呆然と眺めていた。  凪の全身の血の気が、スッと抜けていく。 「お、お疲れ俊。こ、これはね……」 「……わかるよ」 「え? よかった、じゃあすぐ助け」 「凪も寂しかったんだよな」 「……ん?」  視線を逸らし、呆れ顔で口角を上げて目の前の凪と向き合おうとしない俊に、不安を覚えた。  その態度と言動から、泥酔男との浮気を疑っていることがすぐにわかったのに。  だけど、“凪()寂しかった”って、何?
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