3599人が本棚に入れています
本棚に追加
一刻も早く正しい情報を与えて、泥酔した男性から自分を助けてもらわないと。
そう考えていたのに、いや待てよ?と冷静さを取り戻した凪は、徐々に俊に対して不信感を抱きはじめた。
自分の彼女が他の男に胸を揉まれていたら、突き飛ばすなり激怒するなり何かしらの感情が爆発するものでは?
だけど目の前の俊は、凪を助けるどころかショックを受けたふりしてどこかホッとしているようにも見えた。
「俺が転勤して、寂しくて。だから他の男に」
「いや、何言ってんの。よく見て、誰よこれ」
「言い訳すんな、他に男いたんだろ」
「違うよ! 俊が来るのを待ってたんだよ!」
台詞の端々から諦めの感情が伝わる。
俊が自分の浮気を疑っていて、違うと言っても聞き入れてもらえない。
信じてもらえない、信じようとしてくれない彼にさすがの凪も悲しくなった。
「でもな凪。俺も転勤先でできたんだ、好きな人」
そこでようやく、凪を助けなかった俊の本当の理由が明らかになった。
今のこの状況は俊にとって都合が良かったんだ。
恋人の浮気現場を目撃して、これで別れる原因を凪のせいにできる。
他に好きな人ができた自分の後ろめたい気持ちが、これで消滅するから。
お互い様だね、で片付けられると。
「誕生日に悪いけど、別れ話したくて帰ってきたようなもんだから」
「……何それ、逆に趣味悪すぎ……」
これから先、一年に一度の誕生日を迎えるたびに。
二十五才になった夜は、俊と別れた今日の出来事を思い出してしまうだろう。
最初のコメントを投稿しよう!