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一つ、また一つとゴミ袋に空き缶を放り投げていく行為が、まるで篤人との思い出を片付けているような感覚になって。
ふと、手を止めてしまった。
(捨てる? 篤人との……)
最悪だった出会いも、誤解が解けた夜も。
初めて触れた肌の温もりも、全部捨てたいと思っているの?と自問自答した途端。
目頭が熱くなってくるのがわかった。
(捨てたいわけじゃない。全部、私の中では大切な思い出だから……)
篤人が愛美を選んだとしても、愛美と未来を歩むことを決めたとしても。
凪の思い出も感情も心も、凪のものだから。
(勝手だけど、大切に持っておくくらいはいいよね)
やっぱりすぐに吹っ切れるなんて難しくて、でも叶わないこともわかっているから。
せめて、次の恋が訪れてきてくれるまでは。
密かに想うことを、どうか許してほしいと願った凪。
こぼれた涙が頬を伝って、落ちそうになる寸前で手の甲に拭われた。
そうして一人鼻を啜った凪は、何事も起きていなかったように空き缶を片付けていく。
だけど、自分のベッドで寝ていた美里は静かに目を覚ましていて。
涙までは見えていなくても、凪が悲しんでいることを音で感じ取っていたから――。
篤人の存在が凪の中で、今までの中でも特別なものだったんだと。
昨日今日で強く理解できたイブの日となった。
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