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そんな思い出を作るために、今日という日を迎えたわけじゃないのに。
「じゃあ、お元気で」
「……思ってもないことゆーな」
「ほんと凪ってドライだよな。もっと素直になれば?」
「早く去れ、きらい」
「あ、そう……バイバイ」
そう言って玄関ドアを閉めた俊は、近所に停めてあった車に乗ったのだろう。
すぐにエンジン音が聞こえて走り去っていくと、辺りに静けさだけが残った。
「……好きな人って、どうせもう付き合ってるくせに」
そこまで誠実な男でもない俊のことだから、転勤先の女の方が相性良くて簡単に凪を諦められたんだ。
だから未練もなく、次の女が待っているから安心して別れられる。
「……最悪だ」
二十五才という折り返し地点の大事な誕生日なのに、交際半年の彼氏には振られ。
泥酔した見知らぬ男性には突然のしかかられて、神聖なる胸を一揉みされた。
この世の全てを呪うかのように目の色を変えた凪は――。
渾身の力を振り絞って、泥酔した男性の体を手足を使い突き飛ばすことに成功する。
ドン!
そのまま後方に飛ばされた男性は、玄関ドアに思い切り背中を打ち付けた。
そこでようやく、半分眠りかけていた目を開いて表情を歪める。
「……いたた、え、ここどこ」
「うるさい、でていけ」
「……へ?」
まだ意識のはっきりしない男性に気遣いは不要。
他人を思いやる気持ちを今の凪は持つことができず、玄関のドアを開け放って泥酔した男性を乱暴に追い出すと。
バン!と大きな音を立ててドアを閉め、即施錠した。
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