01. 遠距離の彼が帰ってくる

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 そんな思い出を作るために、今日という日を迎えたわけじゃないのに。 「じゃあ、お元気で」 「……思ってもないことゆーな」 「ほんと凪ってドライだよな。もっと素直になれば?」 「早く去れ、きらい」 「あ、そう……バイバイ」  そう言って玄関ドアを閉めた俊は、近所に停めてあった車に乗ったのだろう。  すぐにエンジン音が聞こえて走り去っていくと、辺りに静けさだけが残った。 「……好きな人って、どうせもう付き合ってるくせに」  そこまで誠実な男でもない俊のことだから、転勤先の女の方が相性良くて簡単に凪を諦められたんだ。  だから未練もなく、次の女が待っているから安心して別れられる。 「……最悪だ」  二十五才という折り返し地点の大事な誕生日なのに、交際半年の彼氏には振られ。  泥酔した見知らぬ男性には突然のしかかられて、神聖なる胸を一揉みされた。  この世の全てを呪うかのように目の色を変えた凪は――。  渾身の力を振り絞って、泥酔した男性の体を手足を使い突き飛ばすことに成功する。  ドン!  そのまま後方に飛ばされた男性は、玄関ドアに思い切り背中を打ち付けた。  そこでようやく、半分眠りかけていた目を開いて表情を歪める。 「……いたた、え、ここどこ」 「うるさい、でていけ」 「……へ?」  まだ意識のはっきりしない男性に気遣いは不要。  他人を思いやる気持ちを今の凪は持つことができず、玄関のドアを開け放って泥酔した男性を乱暴に追い出すと。  バン!と大きな音を立ててドアを閉め、即施錠した。
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