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太陽が傾きはじめた頃。
ようやく家を出た凪は、二日酔いでふらふらの美里に玄関先で見送られていた。
「じゃあ凪、気をつけて帰ってね。片付けありがとう」
「うん、美里もゆっくり休んで」
「そうするわ……頭ガンガンする」
具合の悪そうな表情で美里が手を振り、ドアが閉まる。
同じくらいのお酒を摂取したのに体調に何の問題もない凪は、そのまま近くのバス停に向かった。
バスの到着時刻を確認しようとカバンの中のスマホを取り出したが、
真っ暗な画面を見て、そういえば充電が切れたままだったことを思い出す。
(美里の家で充電するのも忘れてた……)
ふうとため息をついて、今の時刻がわからないままひたすらバスを待った。
ここからバス一本で自宅に帰れるのは本当に助かる。
だけど、イブだというのに一人でバス停に佇む飲み帰りの自分の姿に。
(失恋して朝まで飲んで、散々なイブだな……)
行き当たりばったりな過ごし方がおかしくて、不思議と笑いが込み上げてきた。
ゆっくりとした時の流れを感じながら空を見上げると、澄み渡った冬の空が青く広がっている。
『凪、土曜日のクリスマスイブ……』
ふと、残業の帰り道に篤人が話していたセリフを思い出す。
本来なら今日のイブは、篤人と一緒に過ごしているはずだった。
『一緒に過ごしたいと思ってるから』
優しい声でそう言ってくれていた、約束のクリスマスイブの午後。
しかし現実は、太陽がそろそろ夕日に変わろうとしていて、凪は一人で自宅へ帰るためのバスを待ち。
今、こちらに向かってくるバスを一台確認したところだ。
(こんな私だけど、バスは必ず迎えにきてくれる……)
そんな状況もおかしくて、バス停に一人であるのをいいことにふふっと笑い声を漏らした凪は。
停車してドアを開けてくれたバスに感謝しながら乗り込んだ。
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