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確かに夜通し愛美と一緒にいたのなら、体の関係を疑われても仕方がないことくらい篤人にもわかっていた。
だから、たとえ信じてもらえなくてもあの夜はホテルを利用していないだけでなく、
凪という恋人がいる篤人にそんな意思はないと、凪の目を見て宣言したかったのだ。
(っ……自分で言って、赤くなってるし……)
その説明を耳にして、凪はずっと締め付けられていた胸の奥が徐々に楽になっていく。
自信に満ち溢れていそうな顔立ちにも関わらず、こうして初々しく頬を赤く染めて。
そして、仔犬のような瞳を向けて凪の返事を静かに待つ篤人。
(それじゃまるで、私が篤人を捨てたみたいじゃない……)
置いてけぼりを食らったのは、放置され続けていたのは私の方なのに。
そう思っていた凪だが、篤人の行動を信じてあげられずに誤解していたことには、ほんの少しだけ申し訳ない気持ちも芽生えるし。
今でも変わらず、自分に向けられる深い愛情が篤人から強く伝わってきた。
もう一度、信じることを許された気がした。
「……愛美は」
「え?」
「愛美は、もう一人で大丈夫なの?」
ようやく凪と視線を合わせて会話できた篤人は、安心したような表情を浮かべる。
その喜びを噛み締める瞳を、ドキドキするからできればこちらに向けないで、と心の中で思う凪。
それでも内心、数日不足していた何かが満たされていく感覚を覚えていた。
「……愛美は、新しい恋人と破局してしまって、俺に頼るしかなかったみたいで」
「え、でもそれじゃまた同じことが起こるんじゃ――!」
何の解決にもなっていないことを懸念して、凪が不安げな表情に変わる。
ただ、そうなる気持ちも事前に理解していた篤人は、安心させたくて控えめに微笑んだ。
そしてゆっくりと凪に近づいていき、目の前で立ち止まる。
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