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「愛美には見送る際にちゃんと説明したよ。“俺が愛美の話を聞くのはこれが最後”って」
「最後?」
「俺の中心にはいつだって凪がいるし。これからもそばにいてほしいのは凪だけだから」
間近に見た篤人の鼻先が、寒さで赤くなっていた。
いつからこの冬空の下で凪の帰りを待っていたのか。きっと、コートを纏っていてもその下にある体は芯まで冷えているのかもしれない。
そんなふうに考えると、不安と悲しみの感情を抱えた二日間が嘘のようにどうでもよくなっていき。
その心も体も今すぐ温めてあげたい衝動に駆られた凪は、気づけば篤人を力一杯抱きしめていた。
「っ……凪?」
「……見る目、あった」
「え?」
「篤人のこと、幸せにできるのは私だけなんだから。もう黙っていなくならないでよ」
篤人の胸に顔を埋めて、ポツリと呟いた凪。
五年も交際していて、婚約者だった愛美には敵わないと思っていたけれど。
こうして自分の元に帰ってきてくれただけで、もう充分。
自分にはやはり篤人が必要で、篤人もそれを望んでいることが何より自信に繋がった。
「……うん。俺も、凪のことを世界で一番幸せにしたい。俺の手で」
凪の台詞を聞いて、負けじと愛を伝える篤人はその体を抱きしめ返す。
夕日から放たれるオレンジ色の光は、二つの影が一つに重なった瞬間を見届けていて。
イブの夕暮れに互いの存在を認め合えた二人を祝福しているようだった。
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