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08. 特別な日だから
夕日が徐々に沈んでいく中、タクシーに揺られて目的地に着いた二人。
目の前に聳え立つ高ランクのシティホテルを見上げて、ポカンと口を開けていた凪が恐る恐る呟いた。
「え、本当にここのホテル予約してるの?」
「そうだよ」
「絶対高いでしょ」
「そうだね、最上階のレストランは夜景が綺麗で――」
「そうじゃなくて!」
クリスマスイブにこんな高級なホテルの部屋を予約している篤人は、一体どのくらいの支払いが請求されたのだろうと考えた。
凪が割り勘を提案したところで、平社員の一ヶ月分の給料が丸々飛んでいきそうな額かもしれない。
想像しただけで背筋が凍ったが、篤人は構うことなく自然に手を繋いできた。
その横顔は嬉しそうに、また無邪気な雰囲気も纏いながら微笑んでいる。
「俺が凪を喜ばせたくて予約したんだよ。今日は何も気にせずに任せて」
「で、でも……」
「初めて二人で迎えるクリスマスイブなんだから、ね?」
不安を払拭するように声をかけてくれた篤人に、凪は複雑な思いを抱えたまま何も言えなくなってしまった。
そしてホテル内に入っていくと、視界に映ったのは天井がとても高くて煌びやかな、照明の眩しいエントランス。
特別感と高級感が、一気に心を高揚させてくる。
その中心部分には、天井に届きそうな大きなクリスマスツリーが飾られていて。
チェックインに訪れたカップルや家族らを出迎えた。
「篤人見て、綺麗……」
「本当だ、綺麗だね」
二人で同じものを見上げて、同じ気持ちで言葉を交わす。
何気ないことなのかもしれないけれど、今日この瞬間に篤人が隣にいてくれる喜びを噛み締めて。
凪は少しだけこの雰囲気に慣れてくると、篤人にも人生で一番最高なクリスマスイブを感じてもらいたいと、心の底から願った。
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