08. 特別な日だから

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 フロントでチェックインを済ませた二人は、エレベーターに乗り上の階を目指す。  密室空間に二人きりになると、不意に篤人が愛美について少しだけ補足の話をはじめた。 「愛美は、昔からパートナーを切らしたことないって言っていて」 「……学生の頃からってこと?」 「うん。だから彼に突然別れを告げられてショックだったらしい」 「……フリーになったことないって、ある意味すご。まあ愛美いかにもモテそうな女子感あったし」  愛美の容姿と振る舞いを思い出すと、あり得る話だと凪も感じた。  だからこそ突然、孤独感に襲われて気持ちが不安定になった愛美を気の毒だとは思う。 「でも、俺は既に別の道を歩いていたし。冷静になった愛美も理解は示してくれて」 「そ、っか……」 「東京まで見送った時、凪にも伝言預かったよ」 「え?」 「“迷惑かけてごめんなさい”って」  きっと愛美は極限状態の中、藁にもすがる思いで篤人の元にやってきた。  ヨリを戻すことは不可能だとわかっていても、一度でも心を許した誰かに自分の状況を知ってほしかった。  多分、篤人の優しさに甘えたくなった愛美の気持ちを。  凪も少しだけ、わかる気がしたから――。 「私が愛美を理解できる日が来るなんて……」 「え?」 「なんでもない。愛美も今は辛いかもしれないけれど、フリーの楽しさにいつか気づけるといいね」  そうして愛美が強さを手に入れた時、素敵な出会いがあるかもしれないことを願って。  凪は穏やかな笑顔を浮かべる。  その様子を見た篤人も安堵していると、エレベーターが目的の階に到着して二人を下ろした。
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