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今晩過ごす部屋に向かって先頭を歩く篤人に、黙ってついていく凪は。
通路の装飾や絵画の豪華さが視界に入り込んできて、震える声で尋ねる。
「ねえ、このフロア高級感半端ないんだけど」
「ああ、スイートルームがある階だからかな」
「は、スイ……ト?」
聞き慣れない言葉に、凪は目を丸くして復唱したが答えを得られないまま部屋のドア前に到着。
篤人が持っていたカードキーで解錠されると、ゆっくりと扉を開けて――。
「さあ中へどうぞ、凪」
「っ……」
まるでお嬢様をエスコートする執事のように、得意げな表情で室内へと誘う。
普段とは違った特別な雰囲気に、凪の心臓は音を立てながらもその指示に応えて先に進む。
部屋に入って早々、広々としたリビングに壁一面の窓。そこから見下ろせる冬の街全体が確認できた。
完全に夕日が沈んだら、きっと街の至る所で点灯する光が宝石のように散らばる夜景が楽しめるのだろう。
更に部屋の奥には、二人でも持て余しそうなクイーンサイズのベッドが設置されている。
「嘘でしょ、スイートルーム初めて入った……」
「それは良かった。今日は特別な日だから」
高級なホテルに豪華な部屋。
それだけでお腹いっぱいになりそうだと感じていた凪だけど、篤人にはまだ他にも隠していたことがあった。
「19時に最上階のレストランを予約しているんだ」
「え、レストラン⁉︎」
「でもまだ二時間くらいあるし、先に風呂でも入る?」
「いいの? 助かる〜」
朝帰りだった凪にとって、今お風呂に入れるのはありがたい。
それにこの後レストランで食事となれば、尚更体を綺麗にしてメイク直しもしておきたいところだ。
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