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プロローグ
玄関先で倒れ込んだ時に痛めたお尻を、気にかける余裕もなく。
私の股ぐらから首元にかけて、見知らぬ男の体が覆い被さり重くのしかかる。
やけに顔は整っていて、スラリとした背丈。
だけどこの男は、私の前で醜態を晒していることに、多分自覚はない。
決して力任せに襲おうとか、犯罪めいた目的でないことはわかっていた。
何故なら、男は倒れる前からすでに泥酔していて、会話も成り立たないポンコツ状態だったから。
「あの! 重! 早く避けてっ」
「ん〜……ここどこ」
「もう!」
こんにゃくと化した体の重みがダイレクトに乗っかり、とてもじゃないけど女の力だけでは押し返せない。
だから助けを呼ぼうと大量の空気を吸い込んだ時。
男の吐息が首筋を伝って、全身の神経が反応してしまった。
「ッ⁉︎」
腰裏にゾクリと電流のようなものが走り、男が恋人だったなら受け入れ態勢に入るであろう場面。
だけど、体に覆い被さるこの男を私は知らない。
なのに男は、私の体を知っているように肌へと遠慮なしに触れてくる。
そして恋人に甘えてくる感覚で、私の首元にスリスリと黒髪を擦ってきた。
こんな大きな仔犬、知らないし見たこともないのに。
一つ一つの行動にいちいち刺激されてしまう私は、声を漏らさないように耐えるのがやっとだった。
強引に組み敷かれることもなく、ただただ身体のラインを確かめながら優しく動く指先。
私の素足や腕に、手のひらの熱を分け与えてくると。
不意に、Tシャツの上から胸の膨らみに触れて優しく一揉みした男。
そこでぽつりと、寂しげに呟いたのは――。
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