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◇ side牧 ◇
「おーい、ユウちゃん。もうちょっとで家やで。ほら、歩けるか?」
黒野との久々の飲み会は本当に楽しかった。
こんなに心の底から笑ったんは久々かもしれん。
面倒なことが起こると自分の気持ちは心の奥底にギュッと押し込んで、すぐに張り付いたお面を付けるようにヘラヘラと笑ってばかりいた俺は学生時代もずっとそうやって過ごしてきた。
笑ってさえいれば相手に敵意は持たれないだろう。
敵意を持つのも持たれるものめんどくさい。
深い関係になればそのうちめんどくさいことも起こる。
だからできるだけ浅く広く、その場が切り抜けられればそれでいい。
他人と深く関わるのはまっぴらごめんだ。
そう、思っていたのに。
大学で出会った黒野裕樹という男はやたらと俺のことを気に入ったらしく、四六時中子犬のように俺に付きまとっていた。
いつものように適当にあしらおうとしても目を輝かせながらキャンキャンとしつこく俺にくっついてくる。
そしてそのうち俺が根負けする形で、気がつけば大学を卒業するまで行動を共にすることになった。
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