#1 寝起きの質問

2/5
前へ
/40ページ
次へ
「はは、期待に添えんで悪いな」 「あれぇ?牧くんちょっと怒ってんじゃん。ほらほら、牧くんは俺らより二個も年上なんだからもっと労わってやれよ」 「あ、そうだった。牧くんて呼んじゃ悪いよな、本来は『牧先輩』だよな」 (……あー、だる。完全に馬鹿にした言い方やん。別に浪人したことは事実やし気にしてへんけど、いい加減鬱陶しい) 目の前の二人組は俺をわざと逆撫でしたいのか、ずっと不快な笑い声を辺り一面に響かせている。 「別に年齢とか出身とか関係なく同じ一年だろ。お前らは人を馬鹿にできるほどそんな偉いわけ?いい加減みっともないから止めろよ」 突然俺たちに向けられた第四の声。 反射的に声の方へ振り返ると、そこにいたのはまたしても名も知らぬ男だった。 背丈は牧よりやや低く、クセのない髪の毛で… それ以上の特徴がこれと言って見当たらないどこにでもいそうなやつ、というのがその男に対する第一印象だった。 その平凡男は無礼な二人組にさらに二言三言追撃して追い払うと改めて俺の方へ向き直り、ニコリと笑って堰を切ったように話し始めた。 「さっきの授業一緒だったんだけどさ、牧くんの発表めっちゃ分かりやすくてすげーって思ったんだよね!質疑応答にもテキパキ答えてて準備もしっかりしてるなぁって感心したし。来週は俺の発表だからプレッシャー超感じちゃうな。……あ、そうだ、俺のレポート見てちょっとアドバイスしてよ!」 不快感を全面に押し出しながら先ほどの下品な二人組に凄んでいたと思えば、今度は子犬のようにキラキラとした目でこちらの感情なぞお構いなしに自分の言いたいことをぶつけてくる平凡男にしばし俺は圧倒されていた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加