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(ほぼ初対面の俺に感情ストレートすぎるやろ。俺と性格真逆やん…)
俺が困惑しているのを察したのかその男は慌てた様子で声のトーンを落ち着かせ、こちらを見上げながら言った。
「ごめんごめん!俺ばっか盛り上がっちゃって。……俺、黒野裕樹って言います。同じ一年!牧くんと俺、結構授業かぶってんだけど…知らない?」
「え、ああ……ごめん。俺、人の顔とか覚えんのあんま得意ちゃうねん」
そっかぁ、と残念そうな声を出しながら黒野は口を小さく結んだ。
数分前の子犬のような元気よさとはうってかわり明らかに落ち込んだ黒野を前にすると、なんだかとてつもない罪悪感に襲われる。
慌てて俺はお得意のニコニコスマイルで続けた。
「いや、でもほら、もう覚えたで。黒野くんやろ!さっきは鬱陶しいやつらを追っ払ってくれてありがとうな」
俺の対応は後から思えば明らかにその場しのぎの見え透いたものだったのだが、それでも黒野は再び目を輝かせて俺を見ていた。
これが俺・牧直貴と黒野裕樹の最初の出会いとなった。
◇ 黒野side ◇
中から物音ひとつしない扉の前に立つと、そのまま右手を当てて軽快に3回叩いた。
「仁、起きてるか?そろそろ起きないと遅刻するぞー」
……返事がない。
いつもなら俺より先に起きているのに珍しいこともあるもんだ。
俺はもう一度扉に向かって声をかける。
だがやはり結果は同じで何の反応も返ってこなかった。
「仁、入るよー」
俺は今一度のノックと共に、俺とは少し違う匂いのする部屋の中へ足を踏み入れる。
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