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「…おっと」
普段なら綺麗に整頓されている部屋が今朝は分厚い四、五冊の本が床に無造作に散乱していた。
これは昨晩取り組んでいたレポート課題によほど手こずっていたとみえる。
床に散らばった本たちを片付けながら壁際のベッドに近づいていくと倒れ込むようにして村瀬仁が寝ていた。
枕元にも小難しそうな本が一冊、開いたままの状態で置かれている。
「夜中に何か軽く食べるものでも持ってきてやったらよかったな」
そう小さく呟くと俺はしゃがみ込んで、スヤスヤと寝息を立てて寝ている仁の前髪にそっと触れた。
普段はどちらが年上か分からないくらい大人びた仁もこうして見るとまだ幼さが残っている。
(……無防備な姿、可愛すぎだろ)
緩む口元を必死に抑え、俺はもう一度気持ちよさそうに寝ている恋人に声をかけた。
「起きろよ、仁。そろそろ準備しないと学校遅れるぞ」
「……ん、あ、ゆう、きさん?」
「お、やっと起きた?おはよ。昨日はずいぶん遅くまで課題やってたみたいだな」
「…おはよ、ございます」
まだ完全に開ききっていないまぶたのまま、ベッドに腰掛けるようにあくび混じりで大きな体をゆっくりと起こした。
あの仁もこの時ばかりは普通の十九歳の大学生で、普段とのギャップの可愛らしさにまた顔がニヤついてしまう。
ちらりと仁を見ると何だか目が合ったような気がしたので、俺の緩んだ顔を見られる前に慌てて視線を外した。
「……あ、そだ。裕樹さん、いっこ教えてほしいことあるんですけど」
「お、おう、いいよ。って言っても仁の大学の内容だとどこまで教えられるか分かんないけど。何?どんな内容?」
寝起き早々質問とは。
こういう仁の姿勢にはほんと感心する。
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