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「ユウちゃんのその笑い方、なんか懐かしいわ。そや、今はどうなん?」
「『どう』って?」
「彼女とかおるん、って意味。ユウちゃん、大学時代に後輩の子にフラれてからずいぶん引きずってたみたいやから」
一気に心拍数が跳ね上がる。
「彼女」はいない、が……
仁とのことを隠すわけではないが、久々に再開した牧に一体どこから話せばいいものか。
そもそも牧は俺の恋愛対象を「女」だと思っている。
もちろん大学の時はそうだったし、今でもそれがはっきり変わった自覚はない。
それに仁とのなり初めだって世間的にはあまり公にしていいものかどうか。
……やはり久々の再会で牧を困らせるのは「今ではない」と考えた俺はここは無難に流すことにした。
「いやいや、さすがにもう引きずってないよ。卒業してから連絡先とかも一切知らないし。新しい『彼女』もいない。それよりマッキーはどうなんだよ?彼女とか……会社とか?結構ハードって聞いたけど」
俺は一番聞きたかったことを恐る恐る牧に投げかけてみた。
大学時代、連絡は割とマメだった牧が数年間も音信不通にさせるほど忙しい会社だと思ったら俺でなくなって心配する。
「ん、ああ会社は超ブラックやったよ。毎日毎日ノルマや残業がえげつなくてな」
「……やっぱり。体調とか大丈夫、マッキー?」
「なんや、知ってたんか。あ、でも辞めたからへーきやで。あんなパワハラ会社はおるもんちゃうな」
言葉の重さとは裏腹に牧はあっけらかんと答える。
大変だったのは本当だったらしいが、それでも今はもうその環境でないと聞いて俺は少し安心した。
「これからどうすんの?やっぱこっちで仕事探してるの?」
「そやなー、そうしようかなって思てる。こっちにはユウちゃんもおるしな」
「うん、それなら俺も嬉しい!またマッキーといっぱい会えるじゃん」
「……はは、ユウちゃんが大学の時と変わってなくて嬉しいわ」
酒が入っているのもあり、この時の俺はすっかり舞い上がっていた。
またあの学生時代と同じように牧と楽しい時間が過ごせる。
けれども学生時代と「同じような」時間を望んでいたのは俺だけだったということに、この時の俺はまだ気づいていなかった。
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