狂依存

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 私はまた保健室のお世話になった。寮生の私は自室に戻ることなく保健室にいた。私は全く動けなかった。三日ほど保健室どころかベッドから出られなかった。  背中の傷が痛む度に杏さんのことを思い出す。しばらく彼女には会えていない。会ったのは奈々とその友人の柚子さんだけだ。杏さんに会いたい、そして話したい。その思いは日に日に強くなる。そんな時、誰かが保健室に運ばれてきた。カーテンの外から人の声が。 「あなたまた自殺しようとしたの」  鈴木先生の声だ。 「ええ、私は生きていない方がいいので」  自殺しようとしたのは杏さん……? 「ここ一ヶ月は耐えてたのにねえ」 「一ヶ月は癒しが、いたので」 「その癒しはどうしたの?」 「多分嫌われました……そうでなくてもあったら駄目です」  一ヶ月、もしや私の事か?彼女の生きがいになれていたのなら嬉しい。でもその前に誤解を解かなければ。私は今も杏さんのことが好きなのだから。 「失恋が辛いのはわかるよ。私はあなたに生きてほしいけど、難しいよねえ」  鈴木先生はそんなことを話している。もうすぐ終わりそうだ。このままだと帰ってしまう。 「先生。杏さんに、川上杏さんに会わせてくれませんか?」  私がぼんやりしている間に昼食を運んで去ろうとしていた木村先生にお願いする。先生は大きな溜息を吐いてから答える。 「駄目だ。会いたい君の気持ちもわかるが会うと、きっと戻れなくなってしまうから」 「どうしても、ですか?」 「ああ。どうしてもだ」  何が戻れないのか私にはわからない。それに危険かもしれない。それでも私は会いたい。 「杏さんに会わせてください。もし駄目というなら、私はこの怪我が治りしだい死にます」  先生の目を見て告げる。先生は困った顔をする。目を閉じて開いた。 「わかった。だが私は忠告した、それは忘れるな」  それから数分して杏さんがやってくる。 「杏、自殺未遂をしたの?」 「そう。あんたを傷つけたから」  傷ついてない、そう言おうとする私を遮って杏さんは続ける。 「佳子、本当にごめんなさい。止まれなかった。うち、佳子と一緒にいたらもっと傷つけてしまう。だから、もう呼ばないで。うちのことは忘れて」  今にも泣きそうな顔をして話す杏さん。私は振るえる彼女の手をとり口を開く。 「私はね、杏のことが好き。それに痛いのも好き。ただ、ちょっと怖かっただけなんだ」  そこで一度言葉を切り、彼女の目を見て言う。 「杏さん、私とパートナーになってください」 「うちで、いいの?」  まだ不安そうな杏さんの問いに私は答える。 「杏さんでないと駄目なの」  そう、答えるとぎゅっと抱きしめられた。 「ありがとう、佳子。本当にありがとう。私はもう佳子が居ないと生きられないよ」  半泣きになりながら話す杏さんはとても愛おしい。傷は少々痛むがそれどころではない。 「私も杏さんと出会わなかったら屍のような人生を送っていたと思う。可愛くて温かくて美しくて大好きな杏さん、ありがとう」  今ならなんでも言える気がして本心を告げる。 「私も佳子のこと大好きだよ。だから杏さんじゃなくて"杏"って呼んで?」  勝手に口が動き出す。 「杏……?」 「"可愛い"!ありがとう!  抱きしめる力がいっそう強くなる。嬉しいが、傷が痛む。 「ちょっと、痛い」 「あ、ごめん」  急いで手を離すのがまた可愛い。杏さんはそのまま立ち上がり帰ってしまう。去り際に一つ約束をした。 「一カ月後にまた前と同じ部屋に来て。そこでcolorをあげる。前みたいなことには絶対にしないから」 「わかった。よろしくね」  彼女の後ろ姿はいつもと同じで綺麗だった。だがその美しさの中に隠された可愛さを私だけが見つけられると思うと独占欲が満たされる気がした。
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