黄昏

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 僕の母には子宮がない。  両方の卵巣も失くした。おまけに腎臓の片方がヘシャゲているらしくて、第二腰椎も潰れている。母は一体どこまで病魔に取り憑かれているのか、高血圧である上に不整脈もある。その上、主治医に聞くと肝臓が緩やにだが硬く縮み始めているらしい。  それでも母は別に寝たきりの病人ではなくて、とてつもなくゆっくりとだが身の回りのことは自分でするし、少食ながらも毎日三度のご飯をきちんと食べる。そして死んだ父の書斎で父の好きだった世界の七不思議といった本や、神秘の宇宙や天文の本をパラパラと日がな一日めくっているのだ。母を見ていると、生き物の生命力のなんと旺然たることかと感心する。  そんな母の日常に最近異変が起きている。  それが始まったのは昨年に引き続き観測史上最高気温を叩き出した灼熱の夏が終わり、短い秋が過ぎて庭の芝生の緑が色褪せ始め、あれよあれよと冬の到来を感じるようになった十一月も終わりのことだった。    庭といったってよく言う猫の額ほどの申し訳程度のものだが、その芝生の庭で母が奇妙な行動を取るようになったのだ。
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