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子どもの時分、祖父から聞いた戦争の話は復讐譚だった――
「――顔が潰れていたんだ」
子どもの時分、祖父から珍しく戦争の話を聞いた。
夜寒の風が身に染みる甲板。月明かりが煌々と照り、漆黒の海面を金竜が一筋に奔っている。フェリーで家族旅行中、何の気なしに船内を散歩していた折、どうしても思い出してしまった出来事があるという。祖父は見えない何かを見つめるように、静かに語り出した。
――昭和二十年八月に戦争が終わり、戦地や海外領土から、軍民の引き揚げが始まった。
南方戦線にいた私は、前線から集められた同胞と共に、海軍の輸送船で長い航海の旅に出た。
その輸送船の中での出来事だ。
嘗て栄光と共に万里の波濤を乗り越えた兵士達。その先に待ち受けていたものは、南国の異境、緑の監獄、耳を劈く猛烈な砲火、眼に突き刺さる硝煙、肉も骨も痩せ細り、正気を保つのも難しい飢餓、同胞の屍体を這いずり回る虫の群れ――。
皆、一様に地獄を味わってきた。
遠ざかる地獄の余韻に浸りながら――、ゆっくりと輸送船は前後へ、左右へ大きく傾き、兵士達を弄ぶ。
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