おやすみ、魔物があらわれる前に

3/5
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
 ここまで読んだあなたは、モタはなんて不自由な子どもなんだろう、と思ったかもしれません。しかしモタはこの生活が不自由だと感じたことは一度もありませんでした。モタは食べることが大好きな子どもで、美味しいものさえあれば幸せだったからです。町には豊富な農作物があり、食べるものには困りませんでした。特に果物はどれも美味で、モタの大好きな洋菓子たちを美しく彩っていたのです。それらを口にするだけでモタはよい気分になれたのです。  それに、骨董品店には毎日のようにお客さんがやって来ます。肉屋の旦那さんや農家さん、勉強を教えてくれる先生や郵便屋さん。誰もが優しく、モタに外の世界の素敵な話を聞かせてくれました。だからモタは、不自由な生活でも退屈せずに暮らせたのです。  それにしても、なぜパパはそんなにも厳しかったのでしょうか。それは、家の外には魔物がいるからなのでした。モタのママはモタがお腹にいたころに魔物に殺されてしまったのです。時刻は夜。からだは大きく、するどい牙を持った魔物だったとパパは言っていました。モタは死んでしまったお母さんのお腹を切って生まれてきたのです。ママは命をかけてモタを守ったのだから、モタも自分を大切にして生きていかなければならない、と、パパは折りにふれて話していました。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!