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 小紫は自分の右手が震えていることに気がついて、左手で覆って押さえた。 「そ、そうは言っても俺は男。あんたは大店の若旦那だ。子供をなせぬ俺には──」 「いいんだ。養子を貰う手筈は整えた」  不覚にも小紫の目から涙が零れ落ち、慌てて手の甲で拭う。 「あんたいつからそんなことを……」 「出会った時からずっと考えておったのだ」  そう言ってご飯茶碗を持ち上げて、横から柄を眺めた。 「越前国までいっているのに思い出すのはお前のことだ。ほら、見てみろ」  ご飯茶碗にも藤が満開に咲いていた。 「この前、受け取ってきたのだ。前回注文しておいたのだよ。なかなか良い出来だろう」  涙が止まらないのに、小紫の膳に乗っているご飯茶碗を見たらこちらにも藤が咲いていて、もう声を上げて泣き出した。 「困ったことに、何を見てもお前のことだ。空すら紫色に見えるのだから重症だろう? そんな俺がお前以外に誰を娶るというのか」  小紫の肩が揺れるのを楽しそうに眺め「苦労するとは思うが俺のもとに来ておくれ」と、これ以上ない優しい声音で勝介が言う。 「男同士の夫婦なんて聞いたことがねぇ」  素直になれない小紫が涙を拭いながら答えると、勝介が笑う。 「俺は変わり者だからな。それもまた良いじゃぁないか」 終
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