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プロローグ
耳を劈くような悲鳴が飛び交い、木々の間から真っ赤な火の粉が吹き荒れる。
黒煙が夜の空へ舞い上がり、悲鳴は刃物の擦れる音にかき消された。
森の中、喉の痛みを堪えながら一人の少女が赤茶けた大地を走っていた。
足の裏は赤く汚れ、髪は酷く乱れていた。
「はっ…はぁ…っ」
喉の奥から絞り出すような息をしながら、後ろは見ずにひたすら走り続ける。
ふらつきながら、何度転んでも再び起き上がり…。
不意に空を切るような音が聞こえ、少女はその場に倒れ込んだ。
鮮血が地面に飛び散り、少女は呻きながら半身を起こす。
少女の膝裏に走る赤い一本線、近くの木に刺さる一本の矢。
「当たったぞ!囲め!」
「あの村の生き残りだ!殺せ!」
何人もの黒い人影が少女を取り囲む。各々が鈍い光を放つ剣や斧を手にし、その殆どに赤黒い血が付着していた。
少女は鼻から溢れる血を拭う。身体中が痛み、立ち上がる気力も残ってはいなかった。
「子供だろうと関係ない、根絶やしにするんだ。」
「首を切り落とせ!」
四方八方から聞こえる声に耳を貸すことなく、少女は祈るように手を組む。
そして、遥か上空に浮かぶ月を見上げた。星ひとつ見えない真っ黒な空には、大きな月だけが輝いている。
大きな影は斧を振り上げる。
少女はひたすら空を見上げ祈る。
何のために祈るのか。
救いか、死か、復讐か…。
大きな斧が己の首に振り落とされるその瞬間まで。
少女は祈り続けた。
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