マギア総合魔法学園

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「あらもしかして転入生?」  魔女は口に手を当てクスクスと笑った。 アミスはそんな彼女を睨みつけたまま動かない。ただ嫌悪感を露わにしながらその場に佇んでいた。 後ろで立ち尽くしているヴァルプスは、そんな彼女の姿に愕然としていた。 「そんなに怖い顔しないでちょうだい。これはいつものことよ。」  魔女はアミスに数歩近づくと、そっと右手を差し出した。 その爪には青く艶やかなマニキュアが輝いている。 「私エミリーよ。あなたとは気が合いそうだわ、仲良くしましょう。」  口元をニヤリと歪めエミリーは握手を求めている。 アミスは当然、彼女の手を握ることはなかった。 「……気が合う?じ、冗談でしょ?私はあなたみたいな人と仲良くする気は毛頭ないから。」  エミリーの表情は一変し険しいものとなった。 取り巻きのような二人は彼女の後ろからアミスを嫌な目つきで睨んでいる。 しかし三人に睨まれても尚、アミスは強気な姿勢を崩さなかった。 その間もヴァルプスは彼女の後ろで様子を伺うことしかできなかった。 「……へぇ…あなた魔法はどれくらい使えるのかしら…?」 「………。」  エミリーは小馬鹿にするような顔でアミスにそう尋ねる。 アミスは眉間に更に皺を寄せ、口をへの字に尖らせた。 「…まさか、自分の魔法ランクを言えないの?」 「っ……」  アミスはそんなもの存じなかった。 しかし目の前にいる非常に腹立たしい集団に尋ねるわけにもいかなかったので、彼女はひたすら黙ることしかできなかった。 そんな彼女がおかしかったのか、取り巻きたちはニヤニヤと笑い始め、エミリーは更に表情を歪めた。 その憎たらしい表情にアミスは苛立ちを堪えきれなかった。 「うっそぉ…!魔法ランクもいえないなんて相当ランクが低…」 「やかましい!そんなの知ったことか!!そもそも人をランク付けするとかそくっそ最低!!」  アミスはやけくそになりながら叫んだ。 我に返った頃には時既に遅く。周りにいた生徒たちは一斉に彼女たちの方へ視線を向け、辺りはざわつき始めた。 「なんだ喧嘩か?」 「ねぇあれヴァルプスじゃない?学園に戻って来たんだわ…。」  生徒たちの注目の的になってしまったアミスは、周りをキョロキョロと見回しながらたじろぐ。 何十人もの見知らぬ人たちの視線が彼女に向けられている。やはり視線は恐ろしいものだった。 「なによ急に!あんた自分の立場がわかってるの!?」 「そうよ!エミリーちゃんは魔法ランク三なんだから!」  取り巻きたちはアミスに向かってベラベラと文句を言い始めた。 アミスは負けじと一歩前に出ると、周りの目も気にせず再び彼女たちに罵声を浴びせた。 「そっちのランクとか聞いてないし!あとそれファッションのつもり?青髪に青のアクセとか死ぬほど似合ってないんだけど!」 「ぁ…アミス…っ」 「…何ですって?」  ヴァルプスが止めに入るよりも早く、エミリーは素早く杖を取り出しアミスへ向けた。 アミスは細い杖の先端を見ながら口を噤む。降参するつもりはないが、杖を向けられては下手に声は出せなかった。 辺りのざわつきが一層強まり、何事かと奥の教室から飛び出すものまでいた。 「転入初日から痛い目見るなんてついてないわね、あなた…。」  エミリーは勝ち誇ったかのように笑うと、杖をゆっくりと振り始めた。 アミスはその動作に避けることも逃げることも忘れ、目をギュッと細めた。 「スペルヴェント・ラファル!」  しかしエミリーが杖を振り終える前に、アミスの背後から聞き慣れた声がそう言い放った。 そしてヒュンと空を切る音が彼女を横切ったかと思えば、その瞬間エミリーの手から杖が吹き飛んだ。 杖はカランと音を立てながら床に落ち、エミリーたちは何が起きたのかわからないといったような表情で立ち尽くしている。 「アミス!こっちよ!」 「ぉわっ…!」  アミスは突然腕を引かれよろめきながらその場を立ち去った。 エミリーに魔法を放ったのはヴァルプスだった。右手に持った杖をエミリーたちに向けたまま、彼女はアミスを連れて駆け出した。 「まっ…待ちなさいよあんたたち!」  後ろからそんな怒鳴り声が聞こえても、アミスの手を引くヴァルプスは止まることなく走り続け、周りにいた生徒たちを押し退けながら玄関扉を抜け外へ出た。 「だ…大丈夫だった…?」 「うん…何とかね…。」  橋の途中でやっと立ち止まったヴァルプスは、手すりにもたれながら呼吸を整えた。 太陽は真上まで昇り、町の方は活気に溢れていた。アミスは未だに鳴り響く鼓動に胸をギュッと押さえていた。 「……ありがと、アミス。言い返してくれて…。」  ヴァルプスはぎこちなかったが薄らと笑みを浮かべた。 しかしその表情に隠れた不安をアミスはどことなく感じ取っていた。 そして、かつて人間の世界で強がっていた自分を再び重ねてしまった。 「…弱いよ、ああいう人たちって。」  橋の上だけが二人だけの空間のように静まり返り、風の音さえも聞こえない。 アミスは少々恥ずかしげに頬を赤らめながら笑う。 「…でもちょっと…言いすぎたかも…。」 「あははっ…大丈夫よ、きっと何とかなるわ。そんなことより杖と箒よ、見に行きましょ。」  ヴァルプスは町を指差しながら歩き始めた。 橋を渡り切る頃には賑やかな人々の声が聞こえ始め、二人はそのまま人混みの中に紛れていった。
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