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「……はぁ…なんてね……。」
アミスは深々とため息をつく。
光の魔導書を閉じベッドに放り投げ、自分自身もそのまま布団に埋もれるようにうつ伏せに寝そべった。
(別世界なんて夢の中の話…バカみたい…。)
月は再び雲に隠れ、部屋の中は暗闇に包まれる。
アミスは憂鬱な気分のまま目を閉じ、このまま眠ってしまおうかと考えていた。
眠れば全て忘れ、また明日からは課題に追われる忙しい日々が始まる。
そして休暇が終われば学校生活が、毎日同じことの繰り返しが始まるのだ。
アミスは自身の胸をギュッと押さえつけ、唇を噛み締めた。
その時、ギィィ…と静まり返った部屋の中に何かが軋むような音が響き渡る。
「……っ?」
アミスは顔を上げ、暗闇で目を凝らしながら部屋中を見渡した。
そしてある一点を見つめるなり、その目を大きく見開いた。
光が見えたのだ、クローゼットの中に。
微かに開いた扉の隙間が光り輝いている。
何事かと急いでベッドを降り、アミスはクローゼットの扉を勢いよく開けた。
「……なにこれぇ…!!!!」
物が乱雑に置かれていたはずだったクローゼットの中は、隅から隅まで眩い光に覆われていた。
光の粒が粉のように舞い、アミスの周りを浮遊している。
目の前の光景がとても信じられず、アミスは何度も何度も自身の目を擦った。
しかしいくら目を擦っても、頬を引っ叩いても、内腿を抓っても痛いだけだった。
目の前に広がる世にも不思議な光景が消えることはない。
「…べ、別世界への…扉…!?」
アミスは抓った内腿を摩りながらクローゼットに驚愕の顔を向けた。
クローゼットの中は絶え間なく輝き続け、まるで彼女を誘っているようだった。
「…ほ、ほんとに…!?嘘じゃなかったの…!?で、でででも一体どうやって…?トリック?催眠術?幻覚作用!?」
アミスは慌てふためきながら眩い光を観察する。
しかし一向に変化はなく、どうすれば良いかと更に焦る始末であった。
(も…もしかしたら…有毒物質かも…!)
顔面が一気に青ざめたアミスは駆け足でキッチンに向かい、一番大きいサイズの鍋蓋を手に取った。
そしてそれを盾のように構えると、再びクローゼットの方へゆっくりと近づく。
「そ…そっと近づけば、だだだ大丈夫…っ…きっと大丈夫…っ」
一歩、また一歩と慎重にクローゼットに近づいてゆく。
いつか爆発するのだろうか、もしかすると世界消滅を招くかも…。アミスは考えたらキリがないと首を何度も横に振った。
「…ち、ちょっとだけ触って…危なかったらすぐ離れれば…っ」
アミスは鍋蓋を構えながら片手を光の中へ伸ばした。
光にこれといった感触はなく、温度もなかった。体に有毒なものではないとわかり、アミスは安堵のため息を漏らす。
鍋蓋を床に置くと、今度は両手を光のなかへ入れてみた。
「…何ともない…!本当に別世界への扉かも…!」
アミスは驚きと不安と嬉しさが混ざったカオスな感情になっていた。
今この光の中へ飛び込めば、本当に別世界へ行くことができるかもしれない。
そんな考えがアミスの頭の中を過ぎっていた。
「……よ、よーし……もうどうにでもなれ……」
アミスは決心したかのように拳を握ると、クローゼットから何歩か後退る。
そして、光り輝くクローゼットの中心をじっと見つめた。
「……行くぞアミス…。この世界よりも素敵な世界へ…!」
希望に溢れた表情でアミスは助走をつけ、クローゼットの中へ思いっきり飛び込んだ。
アミスの体は光の中へ溶け込んでいった。
痛みも熱もなく、代わりに感じるのは不思議な感覚だった。
眩しさに固く瞼を閉じ、彼女は光の中を進み続けた。
歩いているのか走っているのさえわからない。まるで夢の中のような、心地よいまどろみのような…。
アミスはそんな心地よさの中、ひたすら進み続けた。
己が望む、理想の別世界へと_____。
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