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(だいぶ近くまで来た…。あともう少しで…!)
耳に届く焚き火の音はかなり大きく、より鮮明に聞こえ始めていた。
焚き火の音だけではない。なんと数人の楽しそうな笑い声まで聞こえ始めていたのだ。
運が良ければ食べ物を恵んでもらえるかもしれないと、アミスは先ほどまでとは打って変わって希望に満ち溢れていた。
(あの辺…少し明るい!)
木々の隙間から見える草原が僅かに橙色に輝いているのを見て、アミスは思わず駆け寄った。
パチパチと薪が燃える音、男女の楽しげな騒ぎ声。アミスが駆け寄った大きな木の向こう側から聞こえることは間違いなかった。
彼女は大きな木の幹に手をつくと、そっと幹の向こう側へ顔を覗かせた。
「それじゃあ第18回、不登校同好会のサバトをはじめまーす!!」
大きな炎、それを囲む数人の集団。アミスは彼らを見るなり思わず目を見開いた。
とんがり帽子、片隅に立てかけられた箒。皿に盛り付けられた何かの肉、グラスに注がれた赤い液体。
その全てが、彼女が昼間図書室でレティから聞いた魔法使いの特徴にそっくりだったのだ。
(…魔法使い……!!??)
アミスが咄嗟の判断で木の裏に隠れた時、パキッと小枝の折れる音が辺りに響いた。
彼女は足元に落ちていた真っ二つに折れた小枝を見て、青ざめながら自身の口元に手を当てた。
「ん?ねぇ何か音しなかった?」
「ゴブリンかも!ちょっと見てくる…!」
そんな声と共に何人かの足音が聞こえ始める。
アミスはその場に屈み、低木に隠れながら別の木の裏へと移動した。
すぐ後ろから聞こえる足音に彼女の心臓は鼓動を早めていた。
「どう?なんかいた?」
「いいや、何も。多分気のせいでしょ。」
やがて足音は遠のき、再び賑やかな声が聞こえ始める。
アミスは恐る恐る立ち上がると、足音を立てぬよう忍足でその場を離れた。
(ど…どうして魔法使いがこの世界に…!?)
暗い森の中を再び彷徨うことになったアミスは、先ほど見た光景を頭の中に鮮明に思い浮かべた。
中央に燃え盛っていた大きな炎、周りを囲むとんがり帽子の人々、謎の肉と赤い液体…。
やはり、レティから聞いたサバトの内容と一致していたのだ。
(見つかったら切り刻まれて肉にされる…!)
アミスは思わずヒッ…と小さな声を上げた。
何としてでもこの世界から出なければ、いずれ自分も肉塊にされ食べられる運命だ。
しかし元の世界に帰れる方法などわからず、アミスは既に途方に暮れていた。
(どうしようどうしよう…!とにかく…あの場所からできるだけ離れるしか…!)
早歩きだった足は次第に駆け足になり始めていた。
あの時に見たサバトのような光景を思い出すたびに、アミスは無意識に足を速めていた。
いつの間にか不規則な呼吸を繰り返しながら、彼女は再び森の中を走っていた。
複雑に生えている木の間をすり抜け、とにかく先へと走り続ける。
しかしその時…
「やっば遅刻!サバト始まっちゃう!!」
「え…っ」
突然、木の裏から飛び出してきた人影にぶつかり、アミスは地面に尻餅をついた。
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