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2、神様による家庭菜園(仮)の実演
何を説明されるんだろうと、少し緊張しつつもコクリと頷けば、
「さて、君にも解るような形で説明しようか。まずはこれを見てくれ」
神様が美しく整った指先を開くと、手のひらに三つの「種」のようなものがチョコンと乗っている。
(ん? 何これ)
「えっと、何かの種……でしょうか?」
「そう。これは実演用に用意しただけの、ただの園芸用の種だが、私たち神は創造主から『世界』を構築するための種を三粒授かることが出来、そしてその種を育てることを使命としている」
「この種が世界?」
ちょっと何を言っているのか、イマイチよく分からない。
そもそも神様の言う『世界』ってどういう意味?
「君の前世の知識で例えるなら、この種ひと粒ひと粒が地球という名の惑星と考えるといい」
なるほど。神様の言う『世界』が何を指しているのか分からなくて少し混乱しちゃったけど、それなら俺でも理解が出来る。
「混乱させてしまったようだが、本当の世界の『種』はもっと綺麗なものだよ。ただ残念ながら人間の目には光が強すぎるせいで見せてあげる事は出来ないけどね。なので今は園芸用の種で説明するけど、この種は育てるものの手によって様々な変化を遂げるし、与えられた者は好きなように成長させることが出来る。今は分かりやすくこっちが茄子の種、こっちはきゅうり、最後がにんじんの種としておこうか」
ここまでで分からないところはない?と気遣うように神様が顔を覗きこんできたから、慌ててコクコク頷く。
するとなぜか微笑む神様に頭を撫でられてしまった。わわ、恐れ多いっ。
(──あれ?)
手に触れる感触は確かにあるのに、そこから体温を感じない。
不思議なものを見るように頭から離れていく手を追いかけていくと、その手の平の上に、片手で支えられるくらいの鉢植えが乗せられている。
突然何もない空間から物が現れるなんて、なんだか前世で見たマジックみたいだ。
ちょっと面白い気持ちになってくる。
「この三つの種は別々の野菜として育てていくんだが、同じ土の中で育つせいか根の一部が繋がり合い、お互いがお互いの育成に影響を与えていくのだが」
一旦言葉を止めたあとに神様が鉢植えに視線を送ると、鉢の側面が透けて土の中の様子が見えるようになった。
そこに先程見せてくれた種を埋めると、そこから早送りのように根が伸び、神様が言っていたように根の一部が絡みつくように繋がっている。
本当に手品を見てるみたいだ。
「今は君の目にも分かりやすいように土を使っているが、実際には私の『テリトリー』という名の鉢植えの中で育てているので、種ごとに空気の濃度や環境を整えているんだ」
そう言うと、土の中に埋まった種の場所に、地面から小さな温室がチョコンと三つ生えてきた。
これもイメージを捉えやすいように実演してくれてるのかな?
この中で温度管理しているって伝えたいのかも。
「こうやって覆った中で濃度や環境を変えながら育てていても、作り手が同じだと育つ苗の性質が似てくるのか、私が育てた苗はテクノロジー分野に特化した野菜が育ったよ」
土の上に乗っていた温室が消えたかと思うと、今度はメタリックカラーの苗が三本、堂々と丈を伸ばしている。
分かりやすい見た目だけど、インパクトがすごい。そして雑……!
「せっかくなら苗ごとの特色が強く出るようにと環境や調整を細かく進めていき、最終的に科学、生物工学、メカニックという分野に特化した苗が育つことになったんだけど、その内の一つ。科学分野に特化した野菜というのが君が前世に住んでいた地球だ」
あ……。
普通に家庭菜園の成長を眺めるような気分でいたけど、そう言えばこの苗の一つ一つが惑星のようなものだって言われていたんだった。
科学……確かに記憶の中の地球はこことは比べものにならないくらい、生活水準も文明も違っていた。
機械が身近にある、すごい世界だったと思う。
「そう。君が思い出した通り、文明が全く違っているんだ。この世界にテクノロジーなんてものはない。不思議だろう? 何故だと君は考える?」
俺の頭の中を覗いたらしい神様が、そう問いかけてきたけど全然分からない。
何故かって聞かれても……うーん、ほんと何でこの世界の文明は、地球に追いつくどころか退化しちゃってんだろ?
「ふむ、退化か。まぁまぁの回答だし良しとしよう。正解はね、この世界が一度リセットされているからだよ」
「リセット?」
「そう。そしてそのリセットに必要だったのが、前世の君なんだ」
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