1話 優柔不断なはるおみ先輩

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 *** 「春臣さん、ついに彼女さんに振られたんですか。お疲れ様です」    そう言って軽く頭を下げる者は、職場の後輩である白浜(しらはま)律希(りつき)。中性的な名前とは裏腹に、ゴールデンレトリバーを連想させる凛々しい容姿の青年だ。少し長めのモカブラウンの髪が、頭の上でピョコピョコと揺れている。   「ついにって何だよ……まるで俺がフラれることを予想してたような言い方じゃんか」 「予想してた、とまでは言いませんけど。でも春臣さん、彼女さんと結婚までは考えていなかったんでしょう? 結婚という未来がないのなら、いつか別れるしかないのかなとは思っていましたけど」    律希はひそひそ声で言う。今は職務時間の真っただ中。俺と律希の所属する総務部は社内でも人員数が多く、就業時間内も比較的にぎやかだ。俺たちの会話が目立つことはない。    だからといって恋路の結末を大声で話す気にもなれず、俺もまた声を潜めた。   「やっぱりそんなもん? 4年も付き合っていたのなら結婚も考えるべきだった?」 「もっと早い段階で、腰を据えて話をするべきだったとは思いますよ。単純に結婚する・しないという話だけではなく、法的に籍を入れる・入れない。子どもを作る・作らない。今の時代、色んな結婚の形がありますから」    そんなものかぁ、と俺は溜息を吐いた。  確かに俺は美緒としっかり話をするべきだったのだ。心地いい距離感に甘えるのではなく、愛した人との未来を地に足をつけて考えるべきであった。律希の言うとおり、一口に結婚といっても様々な形があるのだから。
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