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律希との関係を他人に話したのは初めてのこと。想像以上に気恥ずかしくて、俺は生ビールを一気飲みする。
テーブルの上に頬杖をついた黒瀬が、無感情に俺を見つめていた。
「赤根から告白したのか?」
「え? いや、俺がされた側だけど」
「好きだから付き合ってくれと?」
「好きだ、とは言われてないかな。大きな声では言えないんだけど、酔っぱらった勢いで一線を超えちゃってさ。その後なんやかんやあってお付き合いに落ち着いたというか……」
俺はちらりと黒瀬の顔色をうかがった。
起業の話をしていたときとは打って変わって、今の黒瀬は不機嫌だ。俺が同居の提案を断るとは想像していなかったのだろう。
そりゃそうだ。俺だってこんな未来は想像していなかった。酔っぱらった勢いで職場の後輩とセックスして、まさか後日その後輩と付き合うことになるだなんて。
「赤根の身体目当てだろう、それは」
と不機嫌声の黒瀬。
「いや、そんな事はないと思うけど……」
「好きだとは言われていないんだろう? 好きでもない相手と付き合う理由が、身体目当て以外にあるのか」
強い口調で問いただされて、俺は曖昧に笑った。
「いやいや、身体目当てなら俺なんか選ばないでしょ。こんな冴えないオッサンをさ……」
「簡単に落とせると思われたんじゃないのか。赤根のことだから、望まない告白を毅然と跳ねのけることなんてできないだろう。男相手なら万が一にも妊娠の心配はない。ただ性欲を発散したいだけなら理想の相手だろうさ」
俺が律希の告白に流されたことは事実である。しかし可愛い後輩を遊び人のように言われてしまえば、さすがの俺も黙ってはいない。
「律希はそんな小ずるいことを考える奴じゃない。勝手なこと言うなよ」
「そのリツキとやらは会社の関係者か?」
「総務部の後輩だよ。本名は白浜律希」
ふぅん、と黒瀬はつぶやいた。
「白浜律希……ね」
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