15話 走り続けて3か月

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「……俺が抱かれる側でしたぁ」 「マジ? 何でそうなったの。話し合い?」 「初めてそういう雰囲気になったとき、俺ベロベロに酔っぱらってたんだよ。ベロベロの人間がリードすんの、無理じゃない? それで自然とそんな流れに……」 「気持ちよかった?」 「黒瀬……そろそろ黙ってくれないかな」    業を煮やした俺が低い声でささやけば、黒瀬はようやくニヤニヤ笑いを止めた。そのまま俺の傍を離れていく――かと思いきや、さも自然な動作で俺の腰を抱く。   「俺にも抱かせてよ」 「はぇ?」 「男同士のセックス、興味はあったんだよね。慣れたら女とするより気持ちイイとか言うじゃん。参考までに1回抱かせて」 「いやいやいや……おかしいでしょ。どうしてそんな話になるのさ。おいこら、黒瀬ぇ!」    抵抗も虚しく、俺は黒瀬に押し倒された。ちゃぶ台が揺れ、ビールの空き缶がガラガラと音を立てて床に落ちる。    面倒くせぇ。首筋にキスを落とされながら、俺はそんなことを考えていた。  酔っぱらった黒瀬を説得することが面倒臭い。下手に抵抗してギクシャクした関係になるのも嫌だ。ならば素直に抱かれてしまって、「2度目はねぇぞ」と笑って釘を刺す方がずっと楽。どうせ初めてでもないのだから。    黒瀬の顔が下りてきた。キスをされる、と直感した。  その瞬間、俺は黒瀬の肩を押し返していた。ほとんど無意識に。   「……何?」    黒瀬の不機嫌声が降ってくる。なぜ黒瀬のキスを拒んだのか自分でもわからなかった。  他人を拒絶することは怖い。拒絶してまた誰かを不幸にしてしまうくらいなら、多少の不利益を我慢するくらい楽なものだ。今までずっとそうして生きてきた。    流されてしまえ、と過去の俺が言う。けれども今の俺は、どうしても黒瀬を受け入れることができない。   「俺、黒瀬とはできない。したくない」 「何でだよ。白浜とはしたんだろ。どうして俺とはできないわけ?」 「本当にごめん。ちょっと1人で考えさせて」    俺は黒瀬の身体を押しのけると、着の身着のまま玄関へと向かう。赤根、と呼び止められるのもお構いなしに。    なぜ黒瀬とはできないんだろう。黒瀬が男だから?  いや違う、だって律希とはできたんだ。キスをされることも、身体に触られることも嫌じゃなかった。心地良いとすら感じるくらい。    なぜ律希はよくて黒瀬は駄目なんだ。それは俺にとって黒瀬が特別だから?  それとも――律希が特別だから?    息を弾ませ夜道を駆ける。わけもわからず、ただ律希に会いたかった。
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