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「彼氏、いるんでしょ? 俺と会うのはよくないと思うよ」
『……彼とは別れたの。男らしい性格だと思ってたら、ちょっとしたことで店員さんを怒鳴りつけるような人だったんだよ。それでお付き合いするの、怖くなっちゃって』
「あー……そうだったんだ」
『春臣君は絶対にそんなことしなかったよね。だからその……少し話を聞いてもらえないかなと思って』
電話越しに美緒の思惑が伝わってくる。
あなたと会って話をして、あわよくばヨリを戻したい。
別れた今でも美緒のことは大切だ。幸せになって欲しいと思う。でも美緒を幸せにするのはもう俺の役目ではない。俺が幸せにしなければならないのは――
「ごめん、美緒とは会えない。俺、付き合ってる人がいるんだ。その人を不安にさせるようなことはしたくない」
『……そっか』
美緒はそれ以上食い下がることはしなかった。短い別れの挨拶を済ませた後、電話を切る。
隣に座る真理愛が、目をまん丸にして俺を見つめていた。
「あの春臣君が、人の頼みを断ってる」
「そりゃ断るでしょ。この場合はさすがにさ」
俺は座敷の隅を見やった。その場所には律希がいる。壮太を含む数名の男性社員と額を突き合わせ、含み笑いを零しながら楽しそうだ。
ふわふわと揺れる律希のくせっ毛を見て、ほんわりと幸せな気持ちになる俺。真理愛はそんな俺の横顔をじっと見つめている。
「……春臣君のお相手って、もしかしてりっちゃん?」
俺は驚いて飛び上がった。
「うえ⁉ 何でわかったの⁉」
「だって乙女の顔でりっちゃんのこと見てるんだもん。そりゃわかるよ」
とのことだ。
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