18話 HAPPY END.

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18話 HAPPY END.

 まだ夏の匂いを残す風が肌を撫で、どこかの草むらで鈴虫が鳴く。  月明かりに照らされた夜道を、俺と律希は並んで歩いていた。正確にはベロベロに酔っぱらった律希を、俺が半ば引きずるようにして運んでいた。   「律希、お願いだからもう少し頑張って歩いて! 死ぬほど重たいんだけど⁉」 「すみませぇ~ん……今、俺の世界はメリーゴーランドなんです……」    視界がグルグル回って全然歩けない、という意味だろうか。   「1人にすんの不安だなぁ……今夜はうちに泊まってく? 黒瀬がいるからお触り厳禁だけど」    律希とお付き合いを再開して1か月、俺はまだ黒瀬と一緒に暮らしている。近いうちに出ていくつもりではあるのだが、引っ越しの手続きにまで手が回らないのだ。  何せずっと黒瀬と暮らすつもりで、全ての荷物を運び入れてしまったのだから。    例の一件の後、黒瀬とはすぐに仲直りすることができた。俺は「言葉足らずで家を飛び出してゴメン」と、黒瀬は「酔っぱらった勢いで変なことをしてスマン」と。    律希との関係についても、そのときにしっかりと説明した。「身体だけの関係ではない。互いに想いあった上で付き合っている」と。黒瀬は少し寂しそうな顔をしながらも、「わかった」とうなずいてくれた。  俺の引っ越しについても了承してくれた。今の時代、その気になればリモートで仕事はできるからと言って。    しかし黒瀬は納得してくれても、もう一方の律希が中々納得してくれないのが現状。   「春臣さぁん、早く引っ越してくださいよ! 結構ヤキモキしてますからね、俺!」 「あのね、引っ越しって大変なんだよ? まず引っ越し先を見つけないことにはどうにもならないしさぁ」 「それはわかってます! でも嫌なものは嫌なんです!」    面倒くせぇ、と俺は苦笑いだ。  律希はいつも、こんな面倒な思いをしながら酔っぱらった俺を運んでいたのだろうか。そう思えば申し訳なくなる。勧められた酒を断ることは簡単だ。そんな簡単なことが、なぜ今までできなかったんだろう?    ――一歩踏み出す勇気があれば。  真理愛の声が聞こえた気がした。
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