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「あのさぁ、律希。俺と一緒に住む?」
「……え?」
「人づてに聞いた話なんだけどさ。パ、パートナーシップ宣誓書っていうの? それを市役所に出せば、社内の色んな福利厚生が使えるようになるんだって。結婚休暇とか、家族の看護休暇もとれるんだってさ。同性同士じゃ法的な家族にはなれないけど、社会的に家族と認められることはできるんだよ。一歩踏み出す勇気があればさ。だから――」
一呼吸を置いて、俺はその言葉を口にする。人生で初めての言葉を。
「俺と結婚しませんか」
律希は瞬きひとつせずに俺の顔を見つめていた。視線が痛い、呼吸が苦しい。沈黙に押し潰されてしまいそう。
やがて律希はひどく真面目な顔で、しかし情けないくらい舌足らずにこう言った。
「春臣さん、俺は今バチクソに酔っています」
「うん、酔ってんね。見ればわかるよ」
「だから俺にチャンスをください。今週末、ホテルのディナーを予約します。一緒に食べに行きましょう。そこで俺から春臣さんに改めてプロポーズします」
「おいおい、予告しちゃったよ」
サプライズも何もあったものではない。
苦笑いを浮かべる俺の横で、酔っぱらい律希は鬼のような形相だ。
「その気があるならそれとなく伝えてくださいよ! 何でさらっとプロポーズしちゃうんですか? 俺だって春臣さんをびっくりさせたかったのに!」
「お前も酔っぱらうと大概面倒臭いね⁉」
その翌々日。想像の3倍は豪華なホテルのディナー席で、俺はスーツ姿の律希から熱烈なプロポーズを受けることとなる。
俺の答えは言うまでもなく――Yes. 【終】
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