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 人生は巻き戻しが効かない。ただ、未来を構築することはできる。偶然か、必然か。再び出会うことができた僕らは、クリスマスイブの日を二人で一緒に過ごした。十年前は、「サンタさんが見たくない」という稚拙な理由で消えた七瀬も、今は手作りのジンハイボールを飲んで、顔をあからめている。僕は僕でフライドチキンにかぶりつきながら、十年越しの甘い感情とお酒による二つの酔いが渦を巻いて、永遠の浮遊感に襲われている。このまま天国へ行っても悔いはないだろうなと感じるほどに。 「ねえ、風斗。今日は、大丈夫そう?」  七瀬さんが曖昧に誘ってくる。僕らはあまりはっきりとした愛を見せない。だからこそ、遠回りしてしまったのかもしれない。 「もちろん」  それから僕らは無言でベッドに移動した。「クリスマスイブに抱き合うなんて安直だ」なんて冗談を口にしないほど、僕らは僕らの関係を求めていた。  たとえ十年の空白があっても、僕らの愛撫は互いの心をダイブして、恥ずかしい内部も含めて愛し合い、途切れることのない呼吸と呼吸を重ね合い、僕らだけの空間で酔いしれることができた。 「このまま死んでもいいね」  七瀬の冗談か本気かわからない言葉にも、僕は「そうだね」と呼応できる。桃色の空気が広がる僕の部屋、七瀬と僕だけの吐息が混ざり合う。抱きしめ合い、縛り合い、認め合い、愛し合う。 「私たち、結構合うよね」  何を今更、と僕は苦笑する。 「合わなきゃ、こんな再開しないよ」 「そっか」  それから僕たちは満足するまで交わり合い、十二月にもかかわらずお互い疲れ果てて汗を流し、ひんやりとした空気がまとう部屋によって身体を冷やしながら、七瀬はどうせ人間は汚い生き物だから汗臭くてもいいやと割り切って眠った。穏やかな寝息が僕の耳元に響いて、長年封印されていた好きな人による高揚感が蘇る。そうだ、僕はこれを待っていたんだ、と思う。  だから、僕は七瀬の期待に応えたい。   ベッドから起き上がった僕は、七瀬を起こさないようにゆっくりとベッドから抜け出して、自分の机にある本棚の裏に隠していたギフトを取り出して、幸福に満ちた寝顔をしている七瀬の枕元に置いた。 「メリークリスマス、七瀬」  僕の頭の中で、ジングルベルが鳴る。   
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