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「久しぶり、風斗」  偶然か、必然か。時々、人は思いもよらぬ再会をすることがある。 「大きくなったね」  スーパーで品出しする僕の横で、七瀬さんは相変わらず控えめな笑みを浮かべている。 「変わらないですよ。僕はあの頃から、ちっとも成長していません」 「そう? 最後に会ったときよりも、少し身長が伸びた気もするけど」  彼女らしくないお世辞だ。 「七瀬さんが縮んだんじゃないですかね」 「ひどいこと言うじゃない。レディに失礼よ」 「レディって柄じゃないでしょう、あなたは」 「まあ、そうかもね」  十二月。街中のどこもかしかも忙しなくなるのは、実は社会に急かされているからだけだと僕は思う。別に年末だからといって忙しくする必要はないのに、人々は年末にかけて無理やり動かされる。僕が働くスーパーも、年末商戦を謳ってあらゆるものが安くなったり、特売品が増えたりする。『年末限定!』なんてわけのわからないポップまで作られて、しかしそれに惑わされる人々が多いのだ。店員としてはうんざりしながら品出しをするだけだが、店長は本気で年末の売り上げに期待しているから面白い。 「それにしても、驚かないのね」  七瀬さんが期待外れって顔をしている。悔しいのかもしれない。僕がもっとオーバーリアクションでも取ればよかったのだろうか。腰を抜かして、アワアワしながら「七瀬さん、どうしてここに!」と言えばよかったのだろうか。 「そりゃあ、驚きはありますけど。なんというか、懐かしい感じがしないというか。つい最近まで一緒にいたような感じがしてしまったので」 「別れてから十年も経つのに?」  そんなに経ってしまったのか。僕はこめかみを掻き、「あっという間ですね」と言った。 「ほんと。あっという間よ。でも、待ちくたびれた気もする。まるでサンタさんを心待ちにする子供みたいに」 「七瀬さんに、そんな感情があるんですね」  七瀬さんは少し嫌な顔をして、しかしすぐに「今晩、空いてる?」と僕に訊く。特に用事はないと僕が答えると、 「じゃあ、二十時に海鮮居酒屋『大群』で待ってるから。牧島の連れって言えばわかるようにしておく」  それだけ言い残して、七瀬さんは僕に背を向けて去っていった。あのときと同じで、彼女の後ろ姿は西洋画のような美しさと異端さがあった。
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